「下ごしらえは“手間”ではありません。下ごしらえからがお料理なの」
「煮ものに使うかぼちゃや大根は、煮崩れを防ぐために面取りをしておく。魚には隠し包丁を入れてひと塩しておき、お肉は縮まないように筋切りをする……。煮炊きの前に、材料にこのような手をかけておくことを『下ごしらえ』といいます。ばぁばのお料理レシピの文字数は、その大半が下ごしらえに費やされています。なぜならお料理は、下ごしらえから始まるからなのです。
火にかけてからは、いわば“仕上げ”。煮込みなど、かえってガチャガチャいじってはいけないお料理もあります。下ごしらえを“手間”と読む人もいらっしゃるようですが、下ごしらえにかけた時間が、お料理の味と見栄えを決めるのです。せっかくの一品、努々、手を抜かれませんように」
「惜しんではいけないの、食材も愛情も。別れの日は必ず来るのだから」
「無駄遣いをしろとか見栄を張るということではないのよ。相手を思う気持ちや、たとえば鮭のムニエルに使うバターの量をはかりにかけて、『もったいないからこのくらいにしておこう』ととどめる、しみったれた根性をお捨てなさい、ということです。
そのバター1片、おだしの削り節ひとつかみ、お肉100gを惜しんでいったいどれだけの得がありますか? それよりも『バターがきいてすごくおいしい』という声を聞けた方が、ずっと豊かな気持ちになりませんか?
惜しんだ分、相手との関係もお料理も、じつに“惜しい”ものになってご自分に返ってきます。いつか子供は巣立ち、夫とも別れの日が訪れるのです。そしてあなたもまた、あの世へは裸一貫、手ぶらで逝くのですから、誰のためでもない、ご自分の幸せのために、毎日を惜しみなく過ごすことです」
ばぁばの料理教室では、「高級食材ほどぜいたくに盛りつける」。写真は「骨つきラム肉の有馬焼き」。ばぁばはラム肉が大好きだった。
取材・文/神史子 撮影/近藤篤
※女性セブン2021年2月4日号