そして悪いことに、彼女と会ったその夜、喉が痛くなった。コロナ、いよいよ来たか? もしそうなら、どのタイミングで病院に行けばいいんだろう。その前にM子に連絡した方がいいのかな。連絡するといっても、感染源は私? それとも彼女? 私はひとり暮らしだけど、彼女は家族がいる。リスクが高いのは彼女の方じゃないか。私は感染させられた?
猜疑心でいっぱいの体を何度も寝返って、眠れないまま目覚めたら、今度は鼻水がツーと落ちた。新型コロナの特徴は熱・カラ咳・嗅覚や味覚の異常だという。それには当てはまらないけれど、無症状だの、変異種だの、わからないことも多いじゃない。ひとり暮らしが困るのはこういうドツボにハマったときだ。
結果を言うと、ただの風邪だったんだけどね。一事が万事、緊急事態宣言が出て以来、自分の体の変化が怖くて仕方ないのよ。
そんな話を、体の“無罪”が確定してからM子に話すと、「わかるなぁ」とうなずいてくれた。
「それはひとり暮らしだけじゃないよ。家族の誰かが咳をすると緊張するし、手で口を押さえずにくしゃみをされるとムッとする。最近、つまんないことで夫婦げんかをして、なんか家の中が暗いんだわ」と言う。
感染した何人かの話をネットで読む限り、「私はマスクもしていたし、手洗い、うがいも徹底していた。外出はほとんどしていません。夜の街なんてもってのほか。それでも感染しました。どこで感染したのかはわかりません。みなさん、用心の上に用心を重ねてください」と言うの。
てことは、何をしてもムダだってこと? そう言ったら身もふたもないから、回りくどい言い方をしているのかな。
いやいや、違うか。この感染体験者は、実は何度かマスクを外して、飲み会やデートをしてたんじゃない? 動画を見始めたときは、「自分の体験を役に立てたい」という感染者の気持ちに大きくうなずいていたはずなのに、見終えた後は、疑心暗鬼の塊になっている私。いや、私だけじゃないね。動画のコメント欄を読むと、けっこうな言葉が飛び交っているもの。
それはもちろん、感染と比べたら屁みたいなことだけど、もし日本中の、いや、世界中の人が“猜疑心”という病原体を心の中で“感染拡大”させていたらと思うと、震えがくるんだわ。えっ? この震えはもしかしたら……。
※女性セブン2021年2月4日号