ライフ

小松左京 感染症による人類滅亡を描いた小説『復活の日』の先見性

小松左京氏と親交があった医師の下村健寿氏が『復活の日』の先見性を解説

小松左京氏と親交があった医師の下村健寿氏が『復活の日』の先見性を解説

 たびたび「未来を予見していたよう」と評されてきた日本を代表するSF作家・小松左京氏。その代表作のひとつである『復活の日』の先見性について、小松氏と親交があった医師の下村健寿氏が解説する。

 * * *
『復活の日』が凄いのは、現在の生物学から見ても科学的描写が古びていないことです。通常のウイルスは、遺伝情報を持つ「核酸」の周りをたんぱく質の殻が覆っているのですが、『復活の日』ではウイルスに殻がない「むきだしの核酸」というアイデアを採用しています。核酸を覆うたんぱく質の殻がないため、科学者が正体を特定できずに感染が拡大する、という描写になっているのです。

 何より驚くのは、『復活の日』が刊行された1964年当時、この「むきだしの核酸」の存在を考えていた人は、専門家でもほとんどいませんでした。小松さんは専門的な学術論文を原文で読み込み、一線の科学者が思いつかなかった「むきだしの核酸」を着想したのです。その後、1971年には植物界で実際に「むきだしの核酸」が発見されました。パンデミックで人々がパニックに陥る様子も含め、鋭い洞察で描いています。

 終幕近くの描写も非常に示唆的です。『復活の日』では、パンデミックを免れた南極の越冬隊が、国境や人種、宗教の壁を越えて協力してウイルスに対峙します。

 ウイルスに国境はありません。新型コロナ禍でも各国が利害関係を乗り越え一致団結して、初めてウイルスに勝利できるのではないでしょうか。

『復活の日』では、不眠不休で患者の治療にあたる医師が「どんなことにも終わりはある」が、「どんな終わり方をするかが問題だ」と口にします。この言葉通り、現実の世界でも各国の科学者の知恵を結集し、ワクチン開発などの対策を講じて、人類が復活の日を迎えることを願っています。

【プロフィール】
下村健寿(しもむら・けんじゅ)/1972年、群馬県生まれ。福島県立医科大学病態制御薬理医学講座主任教授。糖尿病や肥満、生活習慣病の研究、臨床に携わる。生前の小松氏と親交を持ち、「小松左京マガジン」にも寄稿した。

写真/小松氏のアルバムよりお借りしました

※週刊ポスト2021年2月5日号

関連記事

トピックス

あごひげを生やしワイルドな姿の大野智
《近況スクープ》大野智、「両肩にタトゥー」の衝撃姿 嵐再始動への気運高まるなか、示した“アーティストの魂” 
女性セブン
天海のそばにはいつも家族の存在があった
《お兄様の妹に生まれてよかった》天海祐希、2才年上の最愛の兄との別れ 下町らしいチャキチャキした話し方やしぐさは「兄の影響なの」
女性セブン
満を持してアメリカへ(写真/共同通信社)
アメリカ進出のゆりやんレトリィバァ「渡辺直美超えの存在」へ 流暢な英語でボケ倒し、すでに「アメリカナイズされた笑い」への対応万全
週刊ポスト
傷害致死容疑などで逮捕された八木原亜麻容疑者(20)、川村葉音容疑者(20)、(右はインスタグラムより)
【北海道男子大学生死亡】逮捕された交際相手の八木原亜麻容疑者(20)が高校時代に起こしていたトラブル「友達の机を何かで『死ね』って削って…」 被害男性は中学時代の部活先輩
NEWSポストセブン
ライブペインティングでは模様を切り抜いた型紙にスプレーを拭きかけられた佳子さま(2024年10月26日、佐賀県基山町。撮影/JMPA)
佳子さま、今年2回目の佐賀訪問でも弾けた“笑顔の交流” スプレーでのライブペインティングでは「わぁきれい!うまくできました!」 
女性セブン
木曽路が“出禁”処分に(本人のXより)
《胸丸出しショット投稿で出禁処分》「許されることのない不適切な行為」しゃぶしゃぶチェーン店『木曽路』が投稿女性に「来店禁止通告」していた
NEWSポストセブン
東京・渋谷区にある超名門・慶應義塾幼稚舎
《独占スクープ》慶應幼稚舎に激震!現役児童の父が告白「現役教員らが絡んだ金とコネの入学ルート」、“お受験のフィクサー”に2000万円 
女性セブン
傷害致死容疑などで逮捕された八木原亜麻容疑者(20)、川村葉音容疑者(20)(インスタグラムより)
【北海道男子大学生死亡】 「不思議ちゃん」と「高校デビュー」傷害致死事件を首謀した2人の女子大生容疑者はアルバイト先が同じ 仲良く踊る動画もSNS投稿
NEWSポストセブン
佳子さまの耳元で光る藍色のイヤリング
佳子さまが着用した2640円のイヤリングが驚愕の売れ行き「通常の50倍は売れています」 地方公務で地元の名産品を身につける心遣い
週刊ポスト
いわゆる“ガチ恋”だったという千明博行容疑者(写真/時事通信フォト)
《18才ガールズバー店員刺殺》被害者父の悲しみ「娘の写真を一枚も持ってない。いま思い出せるのは最期の顔だけ…」 49才容疑者の同級生は「昔からちょっと危うい感じ」
女性セブン
100キロウォークに向けて入念に準備をする尾畠さん
85歳になった“スーパーボランティア”尾畠春夫さん、「引退宣言」の真相を語る「100歳までは続けたい」と前言撤回の生涯現役宣言
週刊ポスト
騒動があった西岩部屋(Xより)
《西岩親方、19歳力士の両親を独占直撃》「母と祖母が部屋を匿名誹謗中傷」騒動 親方は「幹希の里は覚悟を決めて書いた」と説明
NEWSポストセブン