腕のいい髪結いの女と、女房の稼ぎで毎日ブラブラ遊んでる七つ年下の亭主。この、喧嘩しながら仲がいい二人を描く小三治の『厩火事』の味わいは、年齢と共に変化してきた。特に今回の令和版では、亭主の本心が知りたいと訴える女房と仲人との会話の中で、夫を愛してやまない女心の切なさが見事に描かれ、奥行きが一段と深まっている。京須氏の解説によれば、小三治本人もこの出来に満足していたという。

 ディスク2の京須氏との対談で小三治は「落語はその時その時の自分が何をどう感じているかがすべて。だから変わり続ける」と語っている。そんな小三治の“令和元年の『厩火事』”は、格別に味わい深い。

【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。

※週刊ポスト2021年2月12日号

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