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「高橋惠子」と「関根恵子」 名前も実質も違う“2人の恵子”の魅力

70年代の「関根恵子」と80年代の「高橋惠子」では何が変わった?(イメージ)

70年代の「関根恵子」と80年代の「高橋惠子」では何が変わった?(イメージ)

 1970年、『高校生ブルース』で、「体育倉庫で結ばれ、妊娠してしまう少女」を演じた関根恵子。70年代の若者たちに衝撃を与えた彼女は、1982年に高橋伴明監督と結婚し、高橋惠子へと生まれ変わる。映画評論家・映画監督の樋口尚文氏は、“2人の恵子”をどう見たか? 樋口氏がその魅力を分析する。

 * * *
 1980年代の「高橋惠子」と70年代の「関根恵子」は、出世魚のように名前も違えば実質も違う。それは「高橋」の所以たる高橋伴明監督との出会いによるものが大きいはずだが、1981年の東陽一監督『ラブレター』の頃からすでにイメージもさま変わりし始めていた。あの70年代の実生活までシンクロした「危うさ」が影を潜め、デビュー時とは違って自ら表現として選択した「裸」さえもが静けさと透明感を漂わせていた。

 そして高橋伴明監督の野心作『TATTOO〈刺青〉あり』での関根恵子は、屈折した男から暴力支配を受け続ける愛人役に捨て身の熱演で応えた。

 ここでの高橋伴明監督は、デビュー以来関根恵子を呪縛してきた「裸」「肢体」には目もくれず、その「相貌」、もっと言えばまなざしにこそ刮目するのだった。この男の身勝手な愛情を呪い、やがて彼の屈折と小心を猛烈に(文字通り)唾棄する関根恵子の「相貌」を真っ向からとらえ、その鋭いまなざしを凝視した。ここにおいて関根恵子の裏腹の魅力でもあった「危うさ」は、堂々たるプロの「凄み」によって更新された。

 そして高橋監督と家庭をつくった関根恵子は、85年の神代辰巳監督の傑作『恋文』あたりからは「高橋惠子」を名乗り、名実ともに安定した実力派女優としてのポジションを築いた。そのあいかわらずの美貌が醸す穏やかさ、屈託のなさは、70年代の「裸」と「危うさ」の時代を疼痛とともに伴走した観客には実に歓迎すべき境地だろう。

【プロフィール】
樋口尚文(ひぐち・なおふみ)/1962年生まれ。映画評論家・映画監督。早稲田大学政治経済学部卒業。監督作に『インターミッション』『葬式の名人』。著書は『秋吉久美子 調書』(秋吉久美子との共著)ほか多数。『大島渚全映画秘蔵資料集成』が4月刊行予定。

※週刊ポスト2021年3月19・26日号

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