詰将棋で磨いた刀を振るう
その強さの秘訣に「詰将棋」があったことはよく知られる。詰将棋は「趣味」であり、“自分が強くなった方法は?”の答えも詰将棋。小学生のときから詰将棋の全国チャンピオンだった。
「負けるとすごく悔しがるタイプだったんです。実戦を指すといくら頑張っても負けることもありますけれども、詰将棋は必ず解けるので。負けはないので(笑い)。どんどん好きになったんです。今も負けると悔しいですけれど、結果そのものより内容から課題が見えますので、負けは成長につながるのかなあと思います」
詰将棋で磨いた「刀」を思う存分にふるえる直近の大会は、3月27日から始まる第4回ABEMAトーナメントだ。将棋界唯一の団体戦で、「持ち時間は5分。一手指すたびに5秒増える」という超早指しルール。「10、9、8、7、6……」と、みるみるうちに秒読みになってしまうため、観客には時限爆弾を見るようなスリルがあるのだが、藤井二冠は涼しい顔でこう語る。
「んー……(目を閉じて左上空に首を曲げて、5秒考える)……自分としては、持ち時間3分で、1手につき2秒加算、という(より厳しい)ルールでも、まだ行けるかなと思っています(笑い)。全く時間がないという感覚ではなくて、少しだけある時間をどこで使うのが大切かなと思いながら指します。すごく気持ちが高まりますし、自分にとっては楽しいルールです。
とはいえ、時間がない状況だと、最後まで読み切ることはさすがに難しい。判断材料が揃っていない中で決断しなければいけないことになるので。その時に、どこに指が伸びるかは、運に近いことがあるかと思いますね」
将棋には他の競技にはない「指運(ゆびうん)」という言葉がある。さしもの藤井二冠も、運を天に任すことがあるのか。
「んー……(5秒考える)…そういった状況を減らすのが理想ですけど、やっぱり全くないというわけではないですね。コンピュータソフトで、1秒間に何百万手と読めるものがあって、それに比べると人間は1万分の1しか読めないわけですけれど、それでもある程度正確に指せます。それは、人間の直感のすごいところだと思います」
将棋の必勝法はあるのかと問うと意外な答えが返ってきた。
「んーー……。究極的には先手勝ち、後手勝ち、引き分け、のどれかになるんですけれども、自分の希望としては、引き分けだと面白いかなと思いますね」
最後に、18歳の至宝に、究極の質問をぶつけてみた。「伝説に残る一局が作れるのなら、家族の命と引き換えにしても構わないと思いますか?」。これは、柳本光晴が描く将棋漫画『龍と苺』(小学館)の中で、劇中の名人が言うセリフだ。普段はまるで漫画を読まないという彼は、本を手にしばし読みふけっていたが、やがて答えた。