「まともに働いたって、金は儲かんないし辛いし、だったら持ってるやつから取った方が得じゃんってなる。若い奴の中には、年寄りから金を奪うことを『ネズミ小僧だ』というやつもいる。金持ちがいるから俺たちが貧乏なのであり、金を溜め込んでいる奴は卑しいのだから奪っても大丈夫なのだと。今は10年前より貧しい人が増えているのか、こういう考えの若い奴は結構いる。生きるための犯行なんだからパクられたところで反省もクソもないでしょう」(西岡氏)
こうした経緯からなのか、単なる詐欺が空き巣になり、果てには強盗殺人に手を染める人間までが出現した。当然、詐欺や空き巣をやるのと、人を直接的に傷つける暴行、そして殺人を犯すにまで至るのとは差がある。だが、こうした傾向が強まり誰も止めぬまま進めば、盗みも殺しもさほど変わらない、という感覚を新たな詐欺師達が抱くことになるのではないか。その兆候が、冒頭で紹介したような、反省などとは縁遠くにわかには信じ難い、被告達の不遜な態度に如実に現れていると思うのだ。
「犯罪は悪いことだからやってはダメ、といっても聞かない。彼らにとっては、詐欺も強盗も生きる手段。それで、うまくいけば大金持ちになれるなんて思っているから、仕事としてやっている。『うまみ』を見て聞いて知っているから、月15万円で土木作業員をやろうなんてハナから選択肢にない。謝罪や反省を求めても無意味なんですよ」(西岡氏)
新型コロナウイルスの感染拡大で社会全体が様々なことを辛抱するようになっても特殊詐欺師たちの勢いは衰えず、コロナを利用した給付金詐欺などに移行し、人々を欺き続けている。もはや彼らに、犯罪をやっているという自覚も、罪の意識もなく、そうすることでしか生きていけないとすら考えているフシもあるのだろう。貧困が拡大し、持つものと持たざる者に分断された結果だと類推することは簡単かもしれないが、彼らが社会の一員として、真っ当に生きていこうと改める機会は今もなく、その機会を与えられるべき、と議論なされないことこそが、真の恐ろしさではないかと感じている。