石黒教授が続ける。
「3つめは、『永遠と(延々と)』、『うる覚え(うろ覚え)』、『息統合(意気投合)』のように、元の語の意味が音からイメージしにくい場合です。漢字力・語彙力が不足していると、『えんえん』『うろ』『いき』が何か、音から漢字を思い浮びません。
4つめは、新人採用の『青田買い』を『青田刈り』とするように、間違った言い方でも意味がそれなりに通る場合です。
間違った言い方というのは、このようないくつかの条件を満たしたときに起こりがちなものだと考えられます」
「よく言えば効率的、悪く言えばサボり」と手厳しい分析をした石黒教授だが、このように付け加える。
「ただし、以下の点には注意が必要です。言葉の正しさは、言葉がどう使われているかで決まります。言葉は変化するものであり、当初は間違った言い方でも、社会に定着すれば、それが正しい言い方になります。また、ネット上で見かける間違いに関しては、匿名掲示板発の『ふいんき(←なぜか変換できない)』というフレーズがネタ化されているように、あえて間違いを楽しむ文化が定着していることにも留意しなければなりません」
もともと「じょうしょ」読みだった「情緒(じょうちょ)」や、「しょうこう」読みだった「消耗(しょうもう)」など、本来とは異なる読み方が定着した例は枚挙にいとまがない。現在はあくまで過渡期なだけで、数十年後には「永遠と」や「うる覚え」が当たり前の世界になっているのかもしれない。
◆取材・文/原田イチボ(HEW)