女形を演じる河合雪之丞
雪之丞が「やっと前向きになれた」のは、2021年に入ってからのこと。暗いトンネルの中を進むような状態の中で、彼の慰めとなったのが「読書」だったという。
かねてから、横溝正史『八つ墓村』をはじめ、江戸川乱歩や山村美沙、西村京太郎など数多くのミステリー作品に出演してきた雪之丞が、「ステイホーム中」に読んだというのが、『スマホを落としただけなのに』の作者・志駕晃氏の最新単行本『彼女のスマホがつながらない』だという。本作は、令和2年の女性週刊誌編集部と平成30年のパパ活女子大生たちという、2つの異なった時空が交差して進行していく「リアルタイムミステリー」だ。
「ミステリーって、西村京太郎先生だったら時刻表、山村美沙先生だったら密室トリックとか、その作家ならではの“持ち味”がありますよね。志駕先生の場合は、圧倒的なリアルとフィクションの融合。安倍元総理の辞任とか、カルロス・ゴーンさんの逃走劇とか、そういっただれでも知っている現実にあった出来事と、架空の女性週刊誌編集部、そしてパパ活女子たちと、異なった時間軸がだんだん合わさっていくというところに、強く魅了されて一気に読みました」
なかでも、一番、雪之丞を驚かせたのが、同書に書かれた「パパ活」の実態だ。
「この本を読むまで、『パパ活』なんて言葉すら知らなかったから、そりゃ驚いた。歌舞伎やお芝居にも、色を売って生計を立てる女性というのは多くでてくるけれど、彼女たちと『パパ活女子』とは全然違う。彼女たちにはまず女郎屋に売られて、その借金を返すために、体を売るというプロセスがあり、ある意味そういったシステムに守られているところがあるけれど、パパ活は『個人営業』ということですよね。危険性を強く感じました」
読書の世界で心癒やされ、雪之丞は4月を迎えて、新たな試みをスタートさせた。劇団新派の重鎮であり、故・十八世中村勘三郎さんの実姉・波乃久里子さん(75才)との二人会「鶴兎会(つるとかい)」の発足だ。
「新派に移ってから早4年がたちますが、いまだに『新派って何?』って聞かれることがあります。『鶴兎会』では、久里子さんとともに、歌舞伎とも他のお芝居ともまた違う、新派ならではの魅力を皆様にご紹介していければと思っております」
◆河合 雪之丞 (かわい・ゆきのじょう)
1970年11月29日東京生まれの新派俳優。30年間歌舞伎俳優「市川春猿」として活躍。2017年に新派に移籍「河合雪之丞」に改名。4月16日(金)、深川江戸資料館小劇場にて、波乃久里子との2人会「第一回 鶴兎会」を開催。