『劇団四季 The Bridge ~歌の架け橋~』の稽古風景。中央は俳優の笠松哲朗さん
そう屈託なく笑う彼も、自粛期間中は、「舞台俳優」という職業について思い悩んだという。
「ネット上で、“コロナのおかげで、必要ない職業がわかったな”という趣旨の書き込みを見てしまったんです。それに対して、反論が思いつかなかった。確かに、俳優は“虚業”。第一次産業や医療とは違い、なくても生活に困らない仕事だと思ってしまった。
ぼくは、人と交わって、大勢で何か1つのものをつくることが好きで、この仕事をさせていただいています。でも、その書き込みを見た瞬間、ぼくの信じていた世界が色あせていくような気がしました」(笠松さん)
事実、緊急事態宣言発出直後は、各地で演劇やコンサートは「不要不急」「感染を広げる恐れがある」との理由で、軒並み中止や自粛に追い込まれ、“強行突破”した団体が批判を浴びたこともあった。代表取締役の吉田智誉樹さんはいう。
「演劇やミュージカルといったライブエンターテインメントは不要不急だといった風潮で、劇団四季だけでなく、日本中の舞台俳優、ミュージシャンなどが窮地に立たされました。そこで始めたのが、クラウドファンディングで資金を募ることでした。
もちろん、金銭的な支援は必要でしたが、それ以上に、日本で広く知られている私たちがまず声を上げて助けを求めることで、この業界全体がいかに困窮しているか、世の中に知っていただきたかったのです」(吉田さん・以下同)
《四季でさえクラウンドファンディングしちゃうんだよ 政府はもっと援助して》《劇団四季大丈夫かな エンタメ業界、本当に苦しいんだ》《四季の作品が大好きだから少しでも力になりたい 再開したらまた観に行きます》
SNS上には驚きと心配の声が上がり、支援金額は2億円を超えた。ひとえに、68年もの間、ハイレベルなパフォーマンスを届け続けてきた、名実ともに“日本一”の劇団への信頼だといえる。
「“あの劇団四季でさえ”と言っていただけることで、ライブエンタメに対する認識が変わるきっかけになるのではないか。その祈りが届いたのか、予想以上の寄付をいただきました。支援してくださったかたがたには、観劇に使えるギフト券など、返礼品をお渡ししています。われわれの気持ちが伝わり、風向きが変わるかもしれないと感じた瞬間でした」
撮影/平野哲郎 提供写真撮影/阿部章仁、荒井健、重松美佐、山之上雅信
※女性セブン2021年5月6・13日号