人が集まったのは駅や飲食店だけではない。休日になると、特に賑わっていた場所の一つが「公園」だ。屋外で密になるリスクも幾分低く、金もかからず気軽にリフレッシュできる場所と考えてなのか、多くの人が公園を訪れた。だが、西日本の某市にある大型の公立公園付近では、役所が公園に人が集まらないようにと講じた対策が原因で、思わぬトラブルが勃発していた。
「市は、公園利用を控えるよう広報していましたが、閉鎖されたのは公園の駐車場だけで、公園自体が閉じられることはありませんでした」
公園のすぐ隣に住む主婦・尾崎真弓さん(仮名・50代)宅前の道路には、駐車場閉鎖の影響からか大量の路上駐車が発生。いくら屋外とはいえ公園内にはビニールシートを広げた家族などが十分なソーシャルディスタンスをとることなく、ひしめき合っていた。危ないなあと思っていると、近くの路上からは、公園にいた泥酔客同士による大声での言い争いが聞こえてきた。
「コロナになる前の春のお花見みたいな感じ。みんなマスクをとって遊び回るし、お酒を飲んでいる人もいる。トイレには長蛇の列ですが、マスクはしない、缶ビール片手にタバコを吸っていたり……。警察が見回りに来ていますが、なんの強制力もないようで、ただウロウロしているだけ」(尾崎さん)
ちなみにこの公園、少し前から「公園飲み」や「路上飲み」が多い場所として、テレビ局が取材に来ていたこともあった。尾崎さんだけでなく、近隣住人も実情を苦々しく思ってはいるが、国や自治体の無策っぷりに呆れ返った今では「人が集まって当然」と諦めるしかなくなってきているようで、付近の雑貨店や飲食店なども人出にあやかろうとGW中に営業を再開している。
このように、自治体や企業がとった対策が人々の接触を減らすどころか、「逆に密」を生んだ場所の典型といえば、緊急事態宣言が発令された地域に隣接する繁華街や観光地である。具体例をあげると、東京に隣接する神奈川、埼玉、千葉などの「人が集まる場所」に、都民が移動して集っているのだ。
「この辺のスーパーやホームセンター、ショッピングモールや飲食店、パチンコ屋まで駐車場が満杯で渋滞が起きてましたよ」
休日の混雑について話してくれたのは、東京に隣接する埼玉県内某市在住の会社員・藤原孝一さん(仮名・40代)。あまりの人手に様子を見に出かけたというが、スーパーもホームセンターも人でごった返しており、駐車場には埼玉県内のナンバーより、都内のナンバーが目立つような状態だったという。
「ショッピングモールの飲食コーナーなどはお祭りみたいな感じ。店には行列もたくさんできているし、マスクをしている以外は、コロナの前となんら変わりない」(藤原さん)
例年なら春の終わりから初夏にかけては絶好の行楽シーズン。感染者が激増しやすい東京や大阪などの大都市に隣接、もしくは大都市からの客をあてにしていた行楽地や商業施設も多い。3密を警戒していたそれらの土地では、過去の緊急事態宣言では「発令エリアから」の来客を拒否するような張り紙も出していたが、もはや「歓迎」するような向きさえもある。
一年前なら、自治体からの要請を守らない、人に感染させた場合のことを考えない人たち、と批判された人たちは、今では金を落としていく立派な「お客さん」となり、彼らを表立って批判する人は激減。外出する人、外出に慎重な人たち同士のトラブルも、リアル、ネットを問わず減っている。この傾向は、3回目の緊急事態宣言発令が決まった頃から顕著になっている。このままでは、今後、感染者数が増えようと、一度目の緊急事態宣言時のように、各地で人出が急激に減ることにはならないだろうと考えざるを得ない状況だ。
一年以上続くコロナ禍は、変異ウイルスの登場で感染が再拡大し、一度目、二度目の緊急事態宣言時より、深刻な医療体制崩壊の危機に陥っている自治体も出始めている。しかし、為政者が訴える「我慢」や「お願い」など、もはや国民の耳には届きそうもない。そして、それらを一切無視する人たちが出現し始めただけでなく、彼らを咎める声も小さくなった。一時期は、お願いをきいて我慢することで、それなりの補償もなされたが、次の補償に関する具体的な話を政権幹部が否定したり、そうかと思えば、東京五輪開催のため、更なる負担を国民に呼びかける政府。ウイルスの感染再拡大と同時に、国民と政府の乖離はどこまで拡がるのか。