こうして全身の血行が悪くなることで、代謝や脂肪分解酵素の働きも悪くなり、肥満を招くほか、2011年の東日本大震災後に多数の死者を出した「エコノミークラス症候群」になる恐れもある。
「別名『深部静脈血栓症』『肺塞栓症』とも呼ばれ、脚の静脈に血栓ができることで起こります。長時間同じ姿勢でいると、立ち上がったとたんにその血栓が心臓を通って肺の動脈を塞ぎ、呼吸困難を引き起こして、最悪の場合は死に至ります」(佐々木さん・以下同)
座りすぎによる筋力の低下も見逃せない。長時間座っていると、つい猫背になっていることが多い。実は、これも筋力の低下の表れだ。
「正しい姿勢をキープするには、ある程度の筋力が必要です。しかし、座位時間が長ければ長いほど筋力は衰え、座っているときはおろか、立っているときや歩くときもうまく体を支えられなくなり、猫背や反り腰になります。すると、ひざや腰、椎間板に負担がかかって、腰痛やヘルニアを引き起こします。
また、猫背や巻き肩の姿勢は、体の前側を圧迫します。その結果、お腹がポッコリ出てしまうほか、胃腸の機能が低下して便秘になったり、肺がうまくふくらまずに、呼吸が不充分になる恐れもあります」
デスクワークや読書、テレビに夢中になって、つい呼吸が浅くなっている人は、注意が必要だ。呼吸が浅くなると、自律神経が乱れて寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりするからだ。
呼吸が浅く、無意識のうちに口呼吸になると、口やのどの粘膜が乾燥して口臭の原因になるほか、免疫力も低下する。
「詳しい理由はまだ解明されていませんが、昨年、国立がん研究センターが発表したデータによれば、座位時間が長いと、女性では肺がん、男性ではすい臓がんのリスクが上がります。
また、2012年のシドニー大学の研究によれば、座位時間が長いと、乳がんのリスクが17%上がるとされています。
そのほか、糖尿病や心臓病、脳卒中といった、命にかかわるさまざまな病気も、座位時間が長いこととの関連性が示唆されています」(岡さん・以下同)
座りっぱなしより立っている方が疲れにくい
こうした多くのリスクから、WHOは昨年11月、10年ぶりに「健康のための身体活動と座位行動のガイドライン」を改訂した。そこでは、「できるだけ座っている時間を短くして、強度が低くてもいいので、毎日身体活動を取り入れましょう」としている。
「さらに、カナダの同様のガイドラインでは“1日8時間以上座らないように心がけましょう”“テレビを見るのは1日3時間以内にしてください”と、より具体的な数字で基準が設けられています」
「今日は疲れたから」と、電車やバスに乗っているときに、空いた座席にすかさず座るのも、やめた方がいい。実は、座り続けている方が、疲労感が残りやすいことがわかっている。