毎日の成果が給料として目に見えることで「達成感」を得られる
「ウーバーイーツに操られているのではという疑問は、常に感じていました。でも、それでも良いと思ったんです。フードデリバリーに限らず、人は誰でも学校や会社、あるいは資本主義や民主主義といった大きな枠組みのなかで生きている。どこまで行っても、何かの手の平の上で生きることから、僕たちは逃れられない。だったら、そのシステムのなかで一生懸命に今を生きて、乗り越えたという実感をつかむほうが、良い生き方だと思うんです」
配達員の仕事は意外と孤独で、人を相手にしているとはいえ、実態はベルトコンベアの作業員に近い。同じ作業を繰り返しているうちに、ブツブツと独り言を言ってしまう気持ちはよく分かる。
「お客さんや店の人とも挨拶ぐらいだし、配達員同士の横のつながりもない。お客さんとは、食べ物を渡して終わり。そういう孤独感のなかで自分を鼓舞していくことの大変さも感じました」
作中、友人からズバっと指摘されるシーンがある。
“ヤギちゃん(=青柳氏)なんてさ。言っちゃ悪いけど、完全に貧困層じゃないですか?”
配達員の仕事は時給換算すると1500円ぐらいにはなるため、ある程度は稼げるが、朝から晩まで自転車を漕ぎ続ける肉体労働として考えると、決して楽ではない。貧困層だなんだと耳の痛い指摘をされてもめげずに頑張り続ける青柳氏を見ていると、応援したい気持ちになってくる。
青柳監督は現在、本作が公開される映画館「ポレポレ東中野」近くで4畳半風呂なし、トイレ共同のアパートに家賃2万円で住み、配達員の仕事を続けている。料理を運ぶリュックにはピンク色の映画ポスターを張り付けて宣伝活動をしているので、街中で見かけることがあるかもしれない。あなたがこの映画を観ることが、その生活を助ける足がかりになる?
■取材・文/西谷格(ライター・元ウーバーイーツ配達員)