国際情報

「体は男性の女性」が女湯入浴で乱闘に発展した「ロス暴動」

ハンガリーの反LGBTQ法への反発もあり、性的マイノリティの不満は各地で鬱積している(AFP=時事)

ハンガリーの反LGBTQ法への反発もあり、性的マイノリティの不満は各地で鬱積している(AFP=時事)

 ロサンゼルスに長年住む、あるドイツ系中年男性ビジネスマンの抱いている韓国人観は、あまり芳しいものではない。

「コリアンといえば、まず頭に浮かぶのはいかがわしいマッサージ店で、あとはスパと焼き肉屋。われわれの世代ではKポップもBTS(防弾少年団)も関係ないね」

 そんな印象の韓国人が密集するロサンゼルスのコリアタウンにあるサウナ「Wi SPA」で事件は起きた。それも、今アメリカで社会問題になっている「セクシャル・マイノリティの権利」をめぐって、LGBTQ(性的マイノリティ)団体と、トランプ支持でも有名になった超保守派Qアノンが衝突し、大乱闘の流血事件だから穏やかではない。

「Wi SPA」はいかがわしい店ではなく高級感あるサウナで、ミネラルソルト・マッサージやハイドロ皮膚剥離(いわゆる垢すり)といった韓国式マッサージが白人セレブにも大いに人気がある。6月26日、店を予約したトランスジェンダー(性転換者)を自称する「身体は男性」の客がやってきて、「女湯はどちら?」と当然のごとく入っていったことから騒動は始まった。

 韓国人従業員は「性別、宗教、人種を問わず、いかなる差別もしてはならない」というカリフォルニア州法第51条を忠実に守って入浴を許可した。ところが数分後、6歳の少女を連れて入浴していた女性が血相を変えてフロントにすっ飛んできた。

「あの人、男よ。女じゃないわ。この店では男を女湯に入れるの? 小さな女の子の前でおちんちんを見せびらかしているのよ! なんとかしてちょうだいッ」

 男性従業員は少しも慌てず、「この街にはありとあらゆる人が住んでおります。トランスジェンダーの方もおられます。当店は州法に従って応対させていただいております」と女性の訴えを退けた。怒りが収まらない女性は、ただちにインスタグラムに投稿。両者のやり取りを撮影していた他の客も動画をSNSに流したことから、「事件」は一瞬のうちに全米に拡散した。

 LGBTQ団体に属するトランスジェンダーたちは、抗議した女性客に対する店の対応は甘かったと抗議し始めたが、サウナ側は「法律は遵守している」として、対応には問題がなかったという主張を続けた。すると団体は一週間後の7月3日に大規模な抗議デモを行うと宣言。「トランスジェンダー連合」のバンビイ・セケドCEOはネット上で攻撃を開始した。

「この女性客の意地の悪い言い分はまさに氷山の一角。われわれトランスジェンダーはこうした屈辱を日常茶飯事で体験している。われわれに対する無知と偏見からくる差別以外の何物でもない」

 それに対して反LGBTQを掲げるQアノンやエバンジェリカルズ(キリスト教福音派)は店の対応は十分だったと支持。反トランスジェンダー活動家のイアン・マイルズ・チョン氏は、「この世界には男と女しかいない。トランスジェンダーなど存在しない」と発言して、予定される抗議デモを粉砕せよと檄を飛ばした。

 そして迎えたデモ当日。数十人のLGBTQ支持者が「トランスジェンダーの女性は女性だ」と書かれたプラカードを掲げて集会を始めようとしたところに、忍者のような全身黒ずくめのQアノン数人が襲い掛かった。リュックに銃を忍ばせている者や鉄パイプを持参した者もいた。エバンジェリカルズは「正真正銘の女性の権利こそ重要だ」というプラカードを掲げて参加した。防戦するデモ隊は素手で立ち向かったが、相手は乱闘慣れしているツワモノばかり。警察が駆けつけるまでに数人がけがをしたと地元テレビは報じている。

「性適合手術を受けていないトランスジェンダー」は女湯に入る権利があるのか。折りしも米最高裁は5日、性転換した高校生が学校の女性用トイレを使えるか否か、その判断は個々人の選択に委ねるべきだ、との判決を下している。性的マイノリティがトイレ、更衣室、風呂で男女用どちらを使うかは自分で決めなさい、という判決だった。「トイレなどでトランスジェンダーの13%がセクハラを受けているという統計があるにもかかわらず、無責任な判決だ」(LGBTQ関係者)との声もある。

関連記事

トピックス

2013年に結婚した北島康介と音楽ユニット「girl next door」の千紗
《不倫報道で沈黙続ける北島康介》元ボーカル妻が過ごす「いつも通りの日常」SNSで垣間見えた“現在の夫婦関係”
NEWSポストセブン
秋篠宮家の長男・悠仁さまの成年式が行われた(2025年9月6日、写真/宮内庁提供)
《凜々しきお姿》成年式に臨まれた悠仁さま 筑波大では「やどかり祭」でご友人とベビーカステラを販売、自転車で構内を移動する充実したキャンパスライフ
NEWSポストセブン
中途採用応募者が急に増えて担当者は困惑(写真提供/イメージマート)
《SNSの偽情報で実害》中途採用に「条件満たさない」応募者が激増した企業、勝手にFラン認定された大学は「少子化の中、学生に来てもらう努力を踏み躙られた」
NEWSポストセブン
趣里(左)の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊(右=Getty Images)
趣里の結婚発表に沈黙を貫く水谷豊、父と娘の“絶妙な距離感” 周囲が気を揉む水谷監督映画での「初共演」への影響
週刊ポスト
日本復帰2戦目で初勝利を挙げたDeNAの藤浪晋太郎(時事通信フォト)
横浜DeNA・藤浪晋太郎を大事な局面で起用する三浦大輔監督のしたたかな戦略 相手ファンからブーイングを受ける“ヒール”がCSの行方を左右する
週刊ポスト
宮路拓馬・外務副大臣に“高額支出”の謎(時事通信フォト)
【スクープ】“石破首相の側近”宮路拓馬・外務副大臣が3年間で「地球24週分のガソリン代」を政治資金から支出 事務所は「政治活動にかかる経費」と主張
週刊ポスト
15人の大家族「うるしやま家」(公式HPより)
《ビッグダディと何が違う?》フジが深夜23時に“大家族モノ”を異例の6週連続放送 今、15人大家族「うるしやま家」が人気の背景 
NEWSポストセブン
自身のYouTubeで新居のルームツアー動画を公開した板野友美(YouTubeより)
《超高級バッグ90個ズラリ!》板野友美「家賃110万円マンション」「エルメス、シャネル」超絶な財力の源泉となった“経営するブランドのパワー” 専門家は「20~30代の支持」と指摘
NEWSポストセブン
高校ゴルフ界の名門・沖学園(福岡県博多区)の男子寮で起きた寮長による寮生らへの暴力行為が明らかになった(左上・HPより)
《お前ら今日中に殺すからな》ゴルフの名門・沖学園「解雇寮長の暴力事案」被害生徒の保護者らが告発、写真に残された“蹴り、殴打、首絞め”の傷跡と「仕置き部屋」の存在
NEWSポストセブン
濱田よしえ被告の凶行が明らかに(右は本人が2008年ごろ開設したHPより、現在削除済み、画像は一部編集部で加工しております)
「未成年の愛人を正常に戻すため、神のシステムを破壊する」占い師・濱田淑恵被告(63)が信者3人とともに入水自殺を決行した経緯【共謀した女性信者の公判で判明】
NEWSポストセブン
指定暴力団山口組総本部(時事通信フォト)
《外道の行い》六代目山口組が「特殊詐欺や闇バイト関与禁止」の厳守事項を通知した裏事情 ルールよりシノギを優先する現実“若いヤクザは仁義より金、任侠道は通じない”
NEWSポストセブン
志村けんさんが語っていた旅館への想い
《5年間空き家だった志村けんさんの豪邸が更地に》大手不動産会社に売却された土地の今後…実兄は「遺品は愛用していた帽子を持って帰っただけ」
NEWSポストセブン