アスリートたちが躍動する東京五輪の感動をさらに大きなものにするのなら、日本を熱狂の渦に巻き込んだ前回大会の思い出の地を訪れるのが一番だろう。
1964年、東京五輪組織委員会事務局が設置されたのは赤坂離宮、現在の迎賓館だ。荘厳な門扉を見上げれば、様々な困難を乗り越え開催にこぎつけた当時の記憶が甦る。
大会の興奮を感じたいのなら、今回もまたメインスタジアムの国立競技場に足を向けたい。隣り合った一角に、貴重な資料や映像がわかりやすく展示された日本オリンピックミュージアムが見えてくる。
歩くのに疲れたら、千駄ヶ谷の「千寿司」で寿司をつまんではどうか。世紀の祭典をその目に刻んだ店主が、カウンター越しに知られざる秘話をそっと語ってくれるかもしれない。 JR原宿駅に向かえば、多くの人で賑わう風景の中に“オリンピック”を見ることができる。国立競技場のある明治公園と代々木競技場を結ぶために掛けられた「五輪橋」だ。
橋を渡れば代々木公園。かつてあった米軍施設は、五輪開催を機に返還され、のちに公園として整備された。戦後日本の苦難の歴史が伝わってくるこの地の一角には、五輪選手村の宿舎の一棟が保存されている。
競技会場の中心のひとつだったのが、現在の駒沢オリンピック公園。建て替え前の屋内球技場では、女子バレーボール“東洋の魔女”が優勝を決めて日本中を沸かせた。男子も負けてはいない。横浜に行けば、見事銅メダルに輝いた男子バレーボール代表などを記念した碑が残る。江の島まで足を延ばすなら、島の中腹から今回大会もヨット競技会場になったヨットハーバーが望める。
57年前の熱狂の名所を巡り歩いてみれば、思いもよらない新たな発見があるにちがいない。
※週刊ポスト2021年7月30日・8月6日号