ライフ

動物生態画の第一人者 学習図鑑のイラストは「野生動物への憧憬獣画です」

大好きなトラを描いた田中豊美さん

大好きなトラを描いた田中豊美さん

 子供のころ“夏休みの友”だった、学習図鑑。自由研究のために、自然のなかで見つけた昆虫や植物を図鑑で調べたという人も多いだろう。

 今も昔も学習図鑑に欠かせないのが「イラスト」だ。そのイラストは、どのように制作されているのか。日本の動物生態画の第一人者で『小学館の図鑑NEO [新版]動物』にも携わった田中豊美さん(81)に、イラストが図鑑に果たす役割や制作工程について訊いた。

「図鑑に掲載する動物のイラストは、その種の典型的な姿を描かなくてはいけません」と、図鑑の仕事ならではの鉄則を語る田中さん。

「そのためには実際の動物の典型的な姿を知る必要がありますが、個体差もあり、どれが典型的な姿なのかも調べないといけません。私がこの仕事に専念し始めた約50年前は動物の資料がわずかしかなく、古本屋街で外国のハンティング雑誌などを買い集め、動物の写真を切り抜いて自分の資料を作りましたね。写真を元に想像力を駆使し、様々なポーズやアングルを考えて描く訓練を重ねました。東京都の多摩動物公園にもずっと通っています」

 絵本や雑誌の挿絵とは異なり、図鑑はより厳密な正確さが求められるという。

「未だに“背筋はこの線で本当にいいのか”などと自分に問いかけながら描いています。図鑑ではイラストにも必ず監修・執筆者の学者や専門家の方の厳格な点検が下絵段階から入り、OKが出るまで何度でも修正します」

 鉛筆で下絵を描き、OKをもらうとアクリル絵の具で彩色する。その後もチェックを受け、ゴーサインが出るまで修正を繰り返して掲載に至るという。図鑑では写真も使われるが、イラストの方が毛並みなど細部がはっきりとわかる場合も多い。

「写真は本物の動物を撮っているので、絵よりも本物なんです。だけど、写真によって光の当たり具合はまちまちですし、しっぽが隠れていることも。そんな場合は絵の方が正確な姿を表現することができます」

 田中さんが描く動物は生き生きとしていると高い評価を受けている。

「子どもの頃から動物に魅せられ、動物に変身して山野を駆け巡りたいという願望が私の絵の原点。言わば“憧憬獣画”なんです。自分が健康でいないと絵も元気にならないので、毎日筋トレして鍛えています(笑い)」

【プロフィール】
田中豊美(たなか・とよみ)/1939年生まれ、三重県出身。印刷会社に勤務し、デザインやイラストの仕事をしながら動物画を学ぶ。69年に上京。以降、動物画に専念。『小学館の図鑑NEO [新版] 動物』など多くの図鑑や生物関係図書に携わる。

取材・文/上田千春 撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2021年7月30日・8月6日号

関連記事

トピックス

二人とも帽子をかぶっていた
《祝・第一子妊娠発表》小山慶一郎(40)と宇野実彩子(38)が見せていた“ハワイ帰りの幸せなやりとり”「いろいろ行ったよね!」
NEWSポストセブン
10月1日、ススキノ事件の第4回公判が行われた
《延長リクエストは断った》田村瑠奈被告の“ホテルで夜遊び”を車で待つ父親の心情「周りから奇異な目で見られても…」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
ジャンボ軍団がセレクションに登場。左から金子柱憲、飯合肇、尾崎直道、尾崎健夫(撮影・太田真三)
10年ぶりに勢揃いのジャンボ軍団が語り合った「日本の男子ツアーが盛り上がらない理由」 女子はスターが次々と出てくるのに“ジャンボ尾崎の跡取り”が出ない苦悩
NEWSポストセブン
公判で明らかになってきた田村一家の“地獄の家”の全貌とは
《どうしてここから出られないの…》田村瑠奈被告は現在も「首を拾っただけなのに」と弁護人に伝達、裁判で明かされた“家庭内暴力”「ガムテープが飛んできた」「運転中に首絞め」【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
慶應義塾アメフト部(インスタグラムより)
《またも未成年飲酒発覚》慶大アメフト部、声明発表前に行われた“緊急ミーティング”の概要「個人の問題」「発表するつもりはない」方針から一転
NEWSポストセブン
1月23日、トランプ大統領はケネディ暗殺に関連する非公開資料を機密解除する大統領令に署名した(写真=AP/AFLO)
【本当に狙ったのは誰か】「ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件」の記録が完全公開へ 落合信彦氏の著書『二〇三九年の真実』で指摘された謎や不審点
週刊ポスト
性的パーティーを主催していたと見られるコムズ被告(Getty Images)
《裸でビリヤード台の上に乗せられ、両腕を後ろで縛られ…》“ディディ事件”の被害女性が勇気の告発、おぞましい暴行の一部始終「あまりの激しさにテーブルの上で吐き出して…」
NEWSポストセブン
引退後の生活を語っていた中居正広
【全文公開】中居正広、15年支えた恋人との“引退後の生活” 地元藤沢では「中居が湘南エリアのマンションの一室を購入した」との話も浮上
女性セブン
親方としてのキャリアをスタートさせた照ノ富士(写真・時事通信フォト)
【25億円プロジェクト】照ノ富士親方の伊勢ヶ濱部屋継承 相撲部屋建設予定地の地主が明かした「6階建てお洒落建物」構想
NEWSポストセブン
水原被告がついた「取り返しのつかない嘘」とは
水原一平被告がついた「取り返しのつかない嘘」に検察官が激怒 嘘の影響で“不名誉な大谷翔平コラ画像”が20ドルで販売
NEWSポストセブン
折田氏が捜査に対し十分な対応をしなかったため、県警と神戸地検は”強制捜査”に踏み切った
《「merchu」に強制捜査》注目される斎藤元彦知事との“大きな乖離”と、折田楓社長(33) の“SNS運用プロ” の実績 5年連続コンペ勝ち抜き、約1305万円で単独落札も
NEWSポストセブン
『東京2025世界陸上』のスペシャルアンバサダーを務める織田裕二
「くすぶって終わりたくない…」 織田裕二がバラエティ出演を辞さなくなった切実な背景《『世界陸上』に緊急復帰の理由》
NEWSポストセブン