仲の良かった友はみな戦死した―そんな戦争を体験したお父ちゃんだから、『ゲゲゲの鬼太郎』についてもこんな思いを話してくれました。
「鬼太郎は敵の妖怪と戦ってもやっつけてしまわずに、話し合いをして元いた場所に帰してやるだろ。作り話の世界であっても、お父ちゃんは相手が死ぬところは見たくないんだよ。戦場で散々見てきたからね。それに妖怪には色々世話になっとるからね。殺すわけにはいかんよ、ハハハ!」
そのお父ちゃんの最期(2015年11月30日、多臓器不全により93歳で死去)に私は立ち会えませんでした。だからお別れの言葉は交わせていません。でもお葬式の前夜、お父ちゃんの遺体の横に布団を敷いて、旅行の思い出とかいっぱい話しました。
朝になってお寺を出る時、お堂から視線を感じて振り返ったんです。そしたら、スーツを着たお父ちゃんがいつものように笑顔で私に手を振っていた。私も“じゃあね”と手を振り返して、お別れしました。
※週刊ポスト2021年8月13日号