混合ダブルス金メダルの瞬間(時事通信フォト)
涙腺は一回崩壊すると、あとはなし崩し。柔道女子52キロ級・阿部詩さん(21才)と柔道男子66キロ級・阿部一二三さん(23才)の“兄妹金メダル”で泣き、卓球混合ダブルスの水谷隼さん(32才)と伊藤美誠さん(20才)のぎこちない金メダルハグで泣き、勝ってドヤ顔しない柔道男子81キロ級・永瀬貴規さん(27才)にも泣かされた。
*
いつの頃からかしら。オリンピックに限らず、注目の選手が大きな大会でメダルを取ると、「あ~ぁ、始まっちゃったよ」とテレビを消したり、音を小さくしたりと大忙しになる私。選手の偉業は何回だって見たいけど、そうならないんだもの。
激闘を制したばかりの選手を、お笑い芸人が仕切る番組にむりやり引っ張り出して、祝福という名の大はしゃぎ。で、競技と関係ない質問を繰り返す。選手も視聴者も飽き飽きしてるのに、テレビ局はそれに気がつかない。
今回の五輪は、それがほとんどない。それで誰も困らない。
感染対策のため、会場から人を極力少なくして競技が行われると「選手のテンション上がらないんじゃないの?」と心配されたけど、どの選手もとても集中して見えた。集中していたのはテレビのこっち側もそう。バレーボールを音声付きで見たのは、いつ以来かしら。
中学時代、9人制バレーのアタッカーだった私にとって、バレーボールは、選手と連動してテレビを見ている自分の体が右に左に、上に下に動き出す数少ないスポーツだ。
それがあるときから、声援というよりお囃子と中継アナの絶叫だらけの見苦しい競技になってしまい、いつしか見ないスポーツになっていたの。でも今回は、競技中に各国の戦術や選手の特性を落ち着いて聞くことができた。
そうなのよね。五輪に場つなぎの笑いもいらないし、選手の地元の皆さんが集まっての「イエ~ィ」もいらない。メダル選手のファミリーヒストリーも大会が終わってからでいい、と私は思うんだわ。
もちろん、コロナ禍で開催された東京五輪が手放しで歓迎できることじゃないことは百も承知よ。だけど、競技本来の姿と、この状況で研鑽を積んだ選手たちを見て、静かに感激して泣けたのは、コロナ禍の数少ない功績と言ってもいいと思う。
※女性セブン2021年8月19・26日号
東京五輪では多くのスターが生まれている(撮影/JMPA)