年齢的にはまだまだ“若手”の中川。とはいえ、既にキャリアは10年以上もあり、映画やドラマ、CMと、数々の作品でいろんな顔を見せてきた。年齢と経験を重ねるごとに「代表作」も増え、とうの昔に子役時代のイメージは払拭。いまや名実ともに若手俳優界の筆頭株の一人だと断言できるだろう。その中川がプライム帯の連ドラの看板を初めて背負うのに、本作は最良の作品だと思える。彼の演じる柊という人物は、「当て書きではないか?」と思ってしまうほどにハマっているのだ。
生真面目だが頼りなく、空回りすることが多い三枚目的なキャラクターは、中川の得意とするところ。近年で言えば、NHK連続テレビ小説『なつぞら』で演じた通称・“イッキュウさん”の姿がすぐに思い浮かぶ。なかなか融通の利かない不器用な人物で、観ていてハラハラさせられることが多かった。このイッキュウさんの場合、普段が融通の利かない気難しい性格な分、焦る姿を見せられると、そのギャップからかつい応援したくなる。中川は、そうした“焦り”の表現がとても優れた俳優なのだ。今作『ボクの殺意が恋をした』でもそれは見受けられ、視聴者は柊演じる中川の背中を押したくなる。
柊は新人とはいえ殺し屋。しかし、憎き仇を目の前にしても、間が悪くて殺すことができない。それだけでなく、持ち前の優しさや正義感からか、敵対する殺し屋からターゲットを守ってしまう始末で、果てはターゲットに恋心まで抱き、殺したいのになぜか守ってしまう、このアンビバレントな感情を中川は“焦り”として語調の乱れや表情の歪みで表現している。こうした描写が繰り返されることで視聴者は彼から目が離せなくなり、どうにもクセになるのだ。
本作は、さまざまな人間の思惑が交錯する物語。その中で、中川は“間の悪さ”によってコメディ要素を一手に引き受けている。柊のアタフタするさまは、さながら“中川大志・オン・ステージ”のようだ。これまでにも中川は、あらゆる作品で「中川大志への当て書きなのでは?」という声が上がる好演を残してきたが、今作はその最たるものだと思う。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。