さらに、武田さんは医師の専門分野ごとの気質の差も一因ではないかとし、こう説明を続ける。
「あくまで肌感覚ですが、同じ医師でも外科医、内科医、放射線治療医では性格が違う。すなわち、外科医は体育会系で元気がいいタイプ。内科医は頭がよくて明晰な人が多い。それに対して放射線治療医は、よく言えば患者に寄り添うタイプ、悪く言えば優柔不断な人が多いように思える。それは学会のあり方にも表れており、外科や内科の学会は全国の治療成績を公表しているが、放射線治療科ではそれを行っていません」
がんが発見され、さまざまな検査を経て病気のステージングを決定するまでは、患者の対応は主に内科医の仕事となる。そこで、手術が最善の治療であると判断されれば、患者は放射線治療医に話を聞く機会すら与えられないことも多いという。
たとえば、スポーツマン風の外科医に爽やかな笑顔で「切っちゃいましょう」と言われ、そのまま従ってしまう患者もいるだろう。一方、放射線治療医があまりアピールが得意でない場合は、患者に説明する機会が与えられないという可能性もある。あるいは、患者自身が「手術が根治治療、放射線は緩和治療」と考えているケースもある。海外では手術と放射線治療が同等レベルの選択肢として存在しているのに、日本では必ずしもそうではないのかもしれない。
手術の負担の大きさを嫌う人は多い
とはいえ、放射線治療のメリットは小さくない。先の各国調査でいう「放射線治療」とは、「体幹部定位放射線治療」という治療法を指している。これはピンポイントでがんの部位だけを焼くような手法のことだ。前出の調査の対象となった肺がんに限らず、肝臓がんや前立腺がんなどでも行われ、保険適用である。メスを入れて体の組織を切除するわけではないため、体への負担が少なく、入院も不要なことが多い。
「仕事までの復帰期間も異なります。早期肺がんの体幹部定位放射線治療であれば通院で5回、1回30分程度なので5日ほど会社を半休するくらい。手術の場合はオペ自体が3時間ほど、入院期間は1週間ほど。自宅静養も含めると1か月ほど仕事を休むことになります」(武田さん)
仕事への支障がここまで減らせるなら、手術は避けたいと考えるのも普通だろう。
「私たちが手術と放射線治療の両方を受けたことがある人を対象に『どちらの治療を受けたいか』とアンケートを行ったところ、生存率が同等ならばほとんどの人が放射線治療を受けたいと回答しました。80才以上にいたっては、『生存率が20%低下したとしても放射線治療を選ぶ』と答えた人が半数を軽く超えており、手術による負担が患者にとっていかに大きいかを考えさせられます」(武田さん)