八四年は角川映画『湯殿山麓呪い村』(池田敏春監督)に主演、即身仏の発掘にまつわる連続殺人に巻き込まれる学者を演じた。
「池田さんはむちゃくちゃ怖かったですね。妥協しないから。ワンカット撮るのに五時間かかることもありました。
日活の撮影所で撮っていたのですが、徹夜明けで朝食を食べたことも何度もありましたよ。朝食を食べていたら『池田組、早いな。もう集まっているの?』『いや、昨日からいます』とか毎日のように言っていました。
池田さんにはよく『自分のイメージを変えろ』と言われました。あの時は僕もまだ池田さんの要求に応えられなかったんです。池田さんの要求はとても高いところにあって、僕の実力じゃまだまだそこに行けなかった。
監督が何を要求しているかということへの理解も、まだ捉え切れていませんでした。理解していたとしてもできない。
監督って皆さん相当インテリで、自分の世界観や美意識を持っているから、あまり考えないで感覚だけでやってきた僕には難しいところがありました」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号