ライフ

なぜ人は「陰謀論」にハマるのか? 変えられない現実と変えられる認知

今年1月、米連邦議会議事堂に押し寄せたトランプ前大統領の支持者たち(写真/EPA=時事)

今年1月、米連邦議会議事堂に押し寄せたトランプ前大統領の支持者たち(写真/EPA=時事)

 米ドナルド・トランプ前大統領の「選挙は盗まれた」「議事堂に行って、勇敢な議員を励まそう」との演説に扇動され、アメリカ連邦議会議事堂を占拠した熱狂的なトランプ支持者たちは、「Qアノン」なる陰謀論を信じているという。Qアノンは、「アメリカはディープステイト(闇の政府)に支配されていて、トランプ氏はそれと闘っている」と主張している。作家・橘玲氏は話題の新刊『無理ゲー社会』で、「絶望から陰謀が生まれる」メカニズムについて考察している。なぜ人は「陰謀論」にハマるのか、同書より抜粋して紹介する。

 * * *
 オウム真理教の信者やQアノンの信奉者を見て、わたしたちは「なぜあんな陰謀論にハマるのか」と疑問に思う。だがこれは、そもそも問いの立て方が間違っている。

 人類が数百万年のあいだ生きてきたのは「近代化以前」の世界で、頼るものは経験と単純な因果論しかなかった。科学的な世界観が確立したのはせいぜい400年ほどで、人類史の0.01%程度にしかならない。わたしたちの祖先は、日食や月食が地動説で説明できることも、感染症が病原菌やウイルスによって引き起こされることも知らなかった。

 世界がまったくの暗闇だとしたら、(なにがどうなっているかわからないまま物事が次々と起きるのだから)ものすごい恐怖だろう。この根源的・実存的な不安から逃れるためには、あらゆる出来事は「説明」され「意味」を与えられなければならない。

 こうして神話や宗教が生まれたが、科学的な知識がないのだから、それらは神秘的・呪術的なものになるしかない。ヒトの脳はもともと陰謀論的に思考するよう「設計」されているのだ。

 その後、近代の啓蒙主義とともにわたしたちの世界観は大きく変わったが、これは「陰謀論」が「科学」に置き換えられたわけではない。近年の脳科学は、意識という中央管制室が全体を統制しているのではなく、脳内では進化の過程のなかでつくられたいくつかの異なるネットワーク(モジュール)が独立に活動しているとする。

 赤い染みのついたセーターを「殺人事件の遺品だ」と説明すると、手に取ろうとするひとはほとんどいない。そこになにか不吉なもの(被害者の霊や怨念)が取りついていると感じるのだ。「目力」というのは、物理法則に反して、目からなんらかの光線が出ていると感じることだ。こうした例はいくらでもあり、わたしたち(無意識)はいまだに呪術的世界を生きている。意識(理性)は地動説でも、無意識は天動説のままなのだ。

 そのように考えれば、問うべきは「なぜ陰謀論にハマるのか」ではなく、「陰謀論を信じるひとがなぜこれほど少ないのか」だろう。ひとびとが陰謀論的に思考しているにもかかわらず、近代社会が科学や理性をもとに運営されているのは驚くべきことなのだ。

 脳のOS(基本システム)が呪術的なのだから、陰謀論にふりまわされるのはごく一部のひとたちだけではない。「リベラル」は右翼・保守派の陰謀論を嘲笑するが、そんな彼ら/彼女たちにしても理性より直感を信頼し、ワクチンや肉食を「自然に反する」として否定する非科学的な「自然崇拝(スピリチュアリズム)」にハマっている。Qアノンが「新型コロナのワクチンにはマイクロチップが入っていて、5G電波で操られる」などと言い出したことで、いまでは右と左の陰謀論は区別がつかなくなってしまった。

関連記事

トピックス

森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
【悠仁さまの大学進学】有力候補の筑波大学に“黄信号”、地元警察が警備に不安 ご本人、秋篠宮ご夫妻、県警との間で「三つ巴の戦い」
女性セブン
どんな演技も積極的にこなす吉高由里子
吉高由里子、魅惑的なシーンが多い『光る君へ』も気合十分 クランクアップ後に結婚か、その後“長いお休み”へ
女性セブン
日本人パートナーがフランスの有名雑誌『Le Point』で悲痛な告白(写真/アフロ)
【300億円の財産はどうなるのか】アラン・ドロンのお家騒動「子供たちが日本人パートナーを告発」「子供たちは“仲間割れ”」のカオス状態 仏国民は高い関心
女性セブン
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”
NEWSポストセブン
わいせつな行為をしたとして罪に問われた牛見豊被告
《恐怖の第二診察室》心の病を抱える女性の局部に繰り返し異物を挿入、弄び続けたわいせつ精神科医のトンデモ言い分 【横浜地裁で初公判】
NEWSポストセブン
バドミントンの大会に出場されていた悠仁さま(写真/宮内庁提供)
《部活動に奮闘》悠仁さま、高校のバドミントン大会にご出場 黒ジャージー、黒スニーカーのスポーティーなお姿
女性セブン
足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
『教場』では木村拓哉から演技指導を受けた堀田真由
【日曜劇場に出演中】堀田真由、『教場』では木村拓哉から細かい演技指導を受ける 珍しい光景にスタッフは驚き
週刊ポスト