空港などの水際対策は完璧ではない(共同通信社)
高齢者施設でクラスターが多発
日中は救急車のサイレンが鳴りやまず、急ごしらえの“野戦病院”に患者が次々と搬送される。だが症状が悪化しても市中病院の重症用病床に空きはなく、酸素マスクを着けた患者が病院にあふれる。医師や看護師は疲労困憊のなかで治療にあたるが、患者が多すぎてさばききれない。そしてまた救急車のサイレン音が聞こえてくる──この秋以降の日本をこんな現実が襲うかもしれない。
9月3日、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、今秋を念頭に日常生活における行動制限の緩和に関する提言をまとめた。ワクチン接種の完了やPCR検査の陰性証明を条件に、県境を越える旅行や大規模イベントなどを容認する内容だ。だが一石さんは、早急な緩和策の実行に懸念を抱く。
「このまま緩和されると人流が増加して、未成年者の感染増や医療逼迫の恐れがあります。さらに加えてワクチンが効かない変異株の攻撃によって、感染爆発に歯止めがかからない可能性があります。
懸念されるのは分科会の提唱した『ワクチン・検査パッケージ』が、大規模商業施設や飲食店でのワクチンパスポート提示を義務付けず『検討すべき』にとどめたことです。これでは感染対策が机上の空論となり、感染拡大が進む恐れがあります」(一石さん)
規制を緩和して人流が増えたまま秋冬の流行シーズンに突入すると、いよいよ医療崩壊が現実味を帯びる。
「変異株のまん延に人流増加、冬のウイルス流行シーズンが重なると新規感染者と重症者が激増し、医療逼迫が続く可能性がある。特に東京、千葉、大阪、沖縄などデルタ株で深刻な被害が出た地域は、さらに野戦病院設置を急ぐ必要があるでしょう。
米ワシントン大学医学部保健指標評価研究所の感染予測(9月1日時点)によると、12月には累計死者数が日本全国で3万4000人以上(9月7日時点の死者数は約1万6000人)、1日の新規感染者数が10万人以上に達します。そうした悲観的な予測が現実化するかもしれません」(一石さん)
ワクチンを優先接種したはずの高齢者への影響も心配される。血液内科医の中村幸嗣さんが指摘する。
「秋以降、変異株の登場による高齢者のブレークスルー感染の増加が最も心配です。例えば、イスラエルは世界に先駆けたワクチン接種で一時は感染者ゼロに近づきましたが、現在は1日平均約1万人が感染して死者も増加傾向にあります」
日本にはベルギーでクラスターが発生した高齢者施設が山のようにある。実際、すでに、沖縄の老人ホームではワクチン接種済みの入所者のクラスターが発生している。変異株の感染が拡大したら、目も当てられないほど悲惨な状況となるはずだ。
ウイルスは勢力争いが激しく、ミュー株やラムダ株が国内に発生しても既存のウイルスとの戦いに勝ち抜かないとまん延はしない。二木さんは「むしろデルタ株が勝ち残ることが怖い」と指摘する。
「感染力が強く免疫を回避し、年少者が感染するデルタ株は現在のところ世界最強のウイルスです。デルタ株が勝ち残ることにより、国内でさらなる変異をする恐れもあります」(二木さん)