朝まで飲み明かす男たちが街から消え、活気を失った銀座。コロナ禍で街の表情はすっかり変わってしまったが、日本一の繁華街を漂う“夜の蝶”たちは懸命に踏ん張っている。そんな夜の蝶たちを描いたのが、京マチ子と山本富士子のW主演の名作『夜の蝶』。映画ライターのよしひらまさみちが同作を論じる。
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映画やドラマになった『愛染かつら』の原作者である川口松太郎のベストセラー小説『夜の蝶』。1957年に映画化されたことで、高度成長期のフィクサーたちが足繁く通う夜の街・銀座を知らしめ、そこを華麗に飛び回るバーの女性たち=「夜の蝶」や「ホステス」という言葉が流行するきっかけとなった作品だ。
政財界や文壇の著名人が常連の高級バー・フランソワを営むマリは、名実ともに銀座のトップマダム。だが、京都の元舞妓・おきくが自身の名を冠したバーを開いたことで、彼女の天下は揺らぐ。
銀座では新参者のおきくだが、舞妓の衣装と京ことばで接客する女給たちの雰囲気づくりで、フランソワとの客の奪い合いが始まる。しかも、おきくはマリの元夫の愛人だったばかりか、腕利きの女給仲介業者を雇ってマリの店からホステスを引き抜き、因縁は深まるばかり。そのバトルのさなか、関西の百貨店社長が東京出店のため、銀座に顔を出すようになったことで2人の対立は激化する。
一流しか知り得ない華やかな夜の社交場と、そこを取り仕切るマダムの気高いプライドを、ネオン輝く銀座の実景とともに描き出した本作。「エスポワール」と「おそめ」という実在したバーとそのマダムたちのライバル関係がベースとなっていたことも、当時の話題になった。
しかもW主演の京マチ子と山本富士子は大映の2大看板女優。彼女らが男たちを利用した裏工作と舌戦で火花を散らすさまは、「夜の蝶」の存在自体がエンタテインメントであるということを印象づけるきっかけに。それは一昨年に上演された新派の舞台版でも踏襲されており、女同士のバトルが本作を語るうえでは欠かせないものとなっている。