そしてなにより見ものなのは、映し出される昭和の銀座だ。都電が走った1950年代の銀座の夜景は、もはや史料的な価値すら感じるほど。また、そこを主戦場に「夜の蝶」として働く従業員たちのしたたかさ、「夜の蝶」に憧れる上京女子たち、彼女らにメロメロの男性客たちのさまを観ていると、何もかもが上り調子の日本を追体験できるだろう。
だが「夜の蝶」という言葉が、全面的にポジティブな意味合いだったかというとそうでもない。働く女性がフェアな視線で見られなかった当時は、のしあがるためならなんでもするかのように見える彼女たちの貪欲さを蔑む側面も持っていた。このように、「夜の蝶」は美醜相反する存在だからこそ、今もなお愛される作品、使われる言葉になったのだろう。
※週刊ポスト2021年9月17・24日号