ライフ

すみだ北斎美術館【1】70代で描いた「これぞ浮世絵」に壇蜜も圧倒

本牧の岬(神奈川県横浜市)あたりを描いたものとされる葛飾北斎の『賀奈川沖本杢之図』(C)Forward Stroke

本牧の岬(神奈川県横浜市)あたりを描いたものとされる葛飾北斎の『賀奈川沖本杢之図』(C)Forward Stroke

 日本美術応援団団長で美術史家・明治学院大学教授の山下裕二氏と、タレントの壇蜜が、日本の美術館や博物館の常設展を巡るこのシリーズ。今回は東京都・墨田区のすみだ北斎美術館の第1回。2人は葛飾北斎が描いた感性豊かな浮世絵に魅了される。

壇蜜:葛飾北斎『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』は世界で愛される、これぞ浮世絵というべき作品ですね。

山下:躍動的に逆巻く大波と波間に望む富士山。静と動、遠と近の対比で自然を雄大に表現しています。

壇蜜:波の荒ぶりと水飛沫に、船に乗っている人たちから「うわぁ~!」と悲鳴が聞こえてきそうです。

山下:大波に翻弄されているのは江戸へ鮮魚を運ぶ押送船。空、雲、波、富士山、船、人と考え抜かれた構図です。北斎がこの絵を描いたのは70代前半でした。

壇蜜:どんな変遷でここへ到達したのでしょうか。

山下:それでは振り向いてみましょう。すみだ北斎美術館の常設展示室では北斎の生涯に沿って作品が紹介され、『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』の向かいには40代半ばに描いた『賀奈川沖本杢之図』がありますよ。

壇蜜:わっ、盛り上がる波の原型が感じられます。ただ、波に意思が宿っているような70代の描写と比べると、波の先端に丸みがあるなど大雑把な印象です。

山下:北斎が鉤爪型の波頭を描き始めた頃で、当時の中国の技法が反映されています。これ以降、表現が磨かれて波が生き物めいてきますが、鉤爪型を紋様としてではなく風景として描く発想力が北斎の柔軟な感性ですね。

 常設展示室では作品保護のため実物大高精細レプリカの展示ですが、9月26日までの特別展『THE北斎』展で実物でも波を見比べることができます。

【プロフィール】
山下裕二(やました・ゆうじ)/1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻、小学館刊)監修を務める、日本美術応援団団長

壇蜜(だん・みつ)/1980年生まれ。タレント。執筆、芝居、バラエティほか幅広く活躍。近著に『三十路女は分が悪い』(中央公論新社刊)

●すみだ北斎美術館
【開館時間】9時半~17時半(最終入館は閉館30分前まで)
【休館日】月曜(祝日、振替休日の場合は翌平日)、年末年始
【入館料】AURORA(常設展示室)400円 ※企画展は展覧会により異なる
【住所】東京都墨田区亀沢2-7-2

撮影/太田真三 取材・文/渡部美也

※週刊ポスト2021年9月17・24日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン
フレルスフ大統領夫妻との歓迎式典に出席するため、スフバートル広場に到着された両陛下。民族衣装を着た子供たちから渡された花束を、笑顔で受け取られた(8日)
《戦後80年慰霊の旅》天皇皇后両陛下、7泊8日でモンゴルへ “こんどこそふたりで”…そんな願いが実を結ぶ 歓迎式典では元横綱が揃い踏み
女性セブン
犯行の理由は「〈あいつウザい〉などのメッセージに腹を立てたから」だという
「凛みたいな女はいない。可愛くて仕方ないんだ…」事件3週間前に“両手ナイフ男”が吐露した被害者・伊藤凛さん(26)への“異常な執着心”《ガールズバー店員2人刺殺》
NEWSポストセブン