国際政治学者の三浦瑠麗氏
これこそが全体主義
東:フランスの哲学者フーコーは、昔の王様は「従わない者は殺す」と言って権力を振るったけど、近代以降の権力は「隣人にヤバいやつがいる」と言って相互に監視させることで従属させるという「生権力」の概念を示しました。日本も戦時中は国民に相互監視させていたことは知られたとおりです。過去にはそうした政治哲学的、社会哲学的な研究の蓄積があったのに、それを大学で勉強したリベラルの人たちが、今、バーベキューを取り締まれ、ロックダウンをやれと主張している。
戦後70年も経つとみんな忘れてしまうんですが、これこそが全体主義なんですよ。全体がよくなるように一人ひとりが自分を律するべし。そして、律することができない人間に対しては全体が介入すべしっていうのが全体主義だから。
そもそも感染症や公衆衛生の専門家から出てくる政策には、危険があるんです。
三浦:そうそう。管理のための管理ですからね。ワクチンは自らの身を守る手段としては優れていますが、若者に利他を強要してはいけない。
東:専門家は、社会全体を病院にしたいんじゃないかな。
小林:そうなんだよ。国民を全員、病室に入れて管理して、勝手に出歩くなって言うんだよ。
三浦:健康のためだけに閉じこもって生きよと。
小林:全体主義と言えば、情報統制もすごいんだよ。ユーチューブでやっている番組で、ワクチンについて少しでもネガティブなことを言うと、一方的に削除されるんだよ。今月末に大阪市立大名誉教授の井上正康氏との対談本『コロナとワクチンの全貌』が出るんだけど、本の宣伝動画さえ削除される。ネットには言論の自由がなくて、むしろオールドメディアの“紙”にしか自由がない。
東:私はワクチンは打ったほうがいいと思っていますが、理由も示さず一方的に削除するっていうのはおかしい。
三浦:私も小林さんとは立場が違いますが、巨大プラットフォーマーが異なる価値観の人間を簡単に排除できてしまうというのは恐ろしいことだと思います。
(第2回に続く)
【プロフィール】
東浩紀(あずま・ひろき)/1971年東京都生まれ。批評家・作家。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。株式会社ゲンロン創業者。近著に『ゲンロン戦記――「知の観客」をつくる』(中公新書ラクレ)。
小林よしのり(こばやし・よしのり)/1953年福岡県生まれ。漫画家。近著に『ゴーマニズム宣言SPECIAL コロナ論3』(扶桑社)。井上正康氏との共著『コロナとワクチンの全貌』が9月30日発売予定。
三浦瑠麗(みうら・るり)/1980年神奈川県生まれ。国際政治学者。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。株式会社山猫総合研究所代表。近著に『日本の分断 私たちの民主主義の未来について』(文春新書)
※週刊ポスト2021年10月8日号