俳優、フォトグラファー、映画監督と多彩な顔を持つ安藤政信
映画のロケ地に選んだのは石川県金沢市。国の有形文化財にも登録されている「石川県立美術館 広坂別館」や、風光明媚な能登金剛の巌門といったロケーションも本作の魅力のひとつだ。そして、ラストシーンに映るのは日本海。ロケーション・ハンティングでこの海を見た時、安藤は初めて「境界線」を意識したという。
「金沢の海を前に“生と死の境界線”を感じて、すぐにラストシーンが頭に浮かんだんです。俺は、生きてることと死んでること、その区別を曖昧にしたかった。『この男は死にました。これで話は終わりです』じゃなくて、自分が生きてるのか、死んでるのかさえ分からなくなるくらい、感情的でドラマチックで夢のような映画にしようと思ったんです。まさにこのプロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season1』のテーマである『境界線を疑え』にも繋がります」
『MIRRORLIAR FILMS』は、「誰もが自由に映像作品を創ることができる」時代に、「自由で新しい映画製作の実現を目指す」企画だ。誰もが映像を撮り、簡単にネットにアップできる環境がある中で、“ただの映像”と“作品”の分水嶺は何なのか。安藤はフォトグラファーとしての経験を交えながら、丁寧に答えてくれた。
「今の時代はスマートフォンでみんな写真を撮っている。でも、誰でも撮影できるからこそ、アート作品やビジネスとして成立させるためには、信念やコンセプト、撮りたい対象への愛が不可欠だと思うんです。俺は、自分のフォトグラファーとしての美的センスや伝えたいコンセプトが、誰にも似てないオリジナルだという自負があります。それは映画にしても同じで、俺にしか撮れないものを撮っていれば、それが作品になるはずと信じています」
安藤は、目まぐるしく変わり続ける時代の片隅で懸命に煌めく一瞬のドラマを、『さくら、』に昇華した。“安藤政信”のエッセンスが濃縮されたデビュー作に酔いしれたい。
【プロフィール】
安藤政信 (あんどう・まさのぶ)/1975年、神奈川県出身。1996年、北野武監督の『キッズ・リターン』で主演として俳優デビュー。主な映画出演作に『バトル・ロワイアル』(2000年)、『69 sixty nine』(2004年)、『46億年の恋』(2006年)など。海外での俳優としての評価も高く、『花の生涯~梅蘭芳~』(2009年)や『セデック・バレ』(2011年)、『無無眠』(2015年)などのアジア映画にも多数出演。ポートレイトやファッションカタログなどを手掛け、フォトグラファーとしても活躍する。
◆取材・文/安里和哲、写真/木川将史