「薬局ヒヤリ・ハット」に報告された「使用禁忌」の危険な事例【事例5、事例6】
“ヒヤリ・ハット”はもっと多い可能性も
抗凝固薬(ワルファリン)を服用中に抗リウマチ薬(イグラチモド)を処方された70代の男性(別掲の事例6参照)は、まさに“九死に一生を得た”事例だ。
この飲み合わせが併用禁忌とされたきっかけは、イグラチモドの販売開始直後(2012~2013年)に相次いだ薬害事故だった。
両剤の併用で出血したり、検査で異常値が出たりした症例9例が報告され、そのうち3例が重篤、1人が死亡している。
これを受け、厚労省医薬食品局安全対策課長通知(2013年5月17日付)により添付文書が改定され、ワルファリンとの併用は「注意」から「禁忌」へと変わった。
「ワルファリンとイグラチモドを併用すると、抗凝固薬の作用が増強されて出血がしやすく、止まりにくくなります。脳梗塞などの予防のためだった抗凝固薬によって、脳出血などを起こすリスクが高まってしまいます」(一石医師)
「薬局ヒヤリ・ハット事例」で報告された併用禁忌の事例は、薬剤師が気付くなどにより水際で食い止められたものだ。現実はもっと多いかもしれない。谷本医師は言う。
「検証がなされて『併用禁忌』だと発覚している事例は一部にすぎません。実際には膨大な飲み合わせのパターンがあり、それらすべてを検証できていないのが現実です。少しでもリスクを減らすために医師や薬剤師に飲んでいるすべての薬を自分からきちんと伝えることが大事ですし、相談の上で多剤併用処方の是正に取り組むことが必要です」
薬の飲み合わせによって死に至るリスクもある──。その事実を重く受け止めるべきだ。
※週刊ポスト2021年10月15・22日号