「おくすり手帳」を見ない
高コレステロール血症など脂質異常症の患者にも、併用禁忌の薬が処方された事例がある。
喘息などの持病があり、日頃から複数の薬局を利用していた60代男性は、吸入薬が原因で口腔内にカビができ、耳鼻科を受診した(別掲の事例3参照)。そこで抗真菌薬の経口用ミコナゾールが処方され薬局を訪れたが、「おくすり手帳」で脂質異常症治療薬のスタチン系薬(シンバスタチン)を他院で処方され、定期服用中であることが判明。ミコナゾールの処方医に照会したところ処方が削除された。
この男性は耳鼻科の受付でも「おくすり手帳」を提出していたが、“受付止まり”で医師まで回らなかったことが原因と推測される。
「スタチン系薬は副作用として横紋筋融解症(骨格筋細胞の壊死、融解によって筋細胞内成分が血液中に流出する疾患)があります。そこにこの抗真菌薬を併用して肝臓に負担がかかった場合、本来の代謝が阻害され、横紋筋融解症発症のリスクが高まると考えられます」(谷本医師)
精神科などで併用されることの多い「睡眠薬」と「抗うつ薬」にも、禁忌の組み合わせがある。
もともと精神神経科で処方された抗うつ薬(フルボキサミンマレイン酸塩)を服用中だった50代男性(別掲の事例4参照)。別の病院で不眠を訴えたところ、睡眠薬の一種であるメラトニン受容体作動薬のラメルテオンを処方された。
薬局で併用禁忌が確認され病院に疑義照会したところ、併用可能な睡眠薬に変更された。報告では処方医が「他院の併用薬を把握していなかった」「そもそも併用禁忌を知らなかった」可能性が指摘されている。
「この2つは比較的よく処方される薬ですが、併用するとラメルテオンの血中濃度が上がって効果が強まり、肝臓に障害が出たり、日中の眠気や頭痛、めまい、吐き気などの副作用が出やすくなります」(谷本医師)
一方で患者の年齢や社会的立場も、併用禁忌の処方が生じる原因になると一石医師は指摘する。
「現役世代の男性は職場などでの世間体を気にして、精神科を受診していることや抗うつ薬を服用していることを言いたがらない傾向があります。他院や他科を受診した際、その情報がないと、併用禁忌の薬が出されるリスクにつながります」