人事部担当者の仕事はそれだけではない。二次選考、三次選考と進めばより事前チェックは厳しくなり、是非とも入社して欲しいと考える優秀な学生にはSNSの書き込みを「あらためて欲しい」とお願いすることもあるという。さらに、調べるのは投稿内容だけではない。
「今やSNSは採用のツールにもなっていますから、学生のSNSをみると色んなことがわかります。例えば、友人に弊社のライバル企業の社員がいれば、弊社に合格した学生がそちらの採用試験も受けたり、インターンに参加していた可能性は高いでしょう。他にも、弊社のライバル企業にいいねを押していたり、そうした企業の記事をシェアしているなどした場合は、徹底的に調べ上げます」(中本さん)
こうした傾向は、大手企業、有名企業ほど強くなる傾向があるようだ。都内の大手商社勤務で、人事部に5年ほど在籍した経験のある現役営業マンの島雄一氏(仮名・40代)が「そこまでやるか」と言いたくなるようなエピソードを披露する。
「狭い業界ですから、志望者はうちの他にライバル企業の採用試験も当然受けます。まあ……あまり多くは言えませんがSNSチェックは社員が自らやりますし、あとは、ライバル企業の採用試験を受けていないかどうか、これをSNSから判断したりして、優秀な学生を絶対に取りこぼさないようにしていました」(島さん)
具体的には、自社を受験した学生のSNSを把握し、その書き込みをチェック。IDが分かれば、そのIDで他のSNSにも登録してはいないかを確認する。人間は、いくつもの名前を思いつきづらいので、共通したIDを使いがちだからだ。
さらに、複数のSNSの分析ツールを導入し、そこにSNSのアカウント名を入力すると、普段から交流のある知人と思しきアカウントがズラリ表示される。そうしたアカウントがやり取りしているユーザーの中に、対象となる志望者の「裏アカ」がないか、そして、社会的には不適切と思われる投稿をしていないか、そのような投稿に反応していたりしないかまでもくまなく調べるという。
優秀な学生の動向をチェックする
当然、デジタル空間で得られた情報は、アナログ的にも活用される。例えば、ライバル企業が採用試験を実施する日に、ライバル企業の所在地近くで撮影された写真や動画をあげていれば「グレー」と判断し、場合によってはその場で学生に電話し「今どこにいるのか」「何をやっているのか」と問いただすのだという。
「SNSからわかった情報をもとに、他社の採用試験の日、駅から他社までの道に何人もの人事部員を配置して、うちの社から内定を出していたり、良い段階まで選考が進んでいる学生がいれば、すぐに声をかけ連れ戻す。弊社が内定を出していたある学生が、別の社の採用試験を受けること分かって、上司が前日から飲みに誘い出し、朝まで飲み明かして採用試験を休ませた、なんてエピソードもあるほどです。昔は、景気の良い企業ならどこでもやっていた、と上司はいいますが、おおっぴらには言えません」(島さん)
かつては「憧れ」とされ、高給で有名だった商社社員、というイメージも過去の話。優秀な学生ほど旧態依然とした多忙な業界に飛び込む、という例は年々少なくなってきており、各社が「囲い込み」に躍起になっているという。であれば千客万来で、事前チェックで多少ひっかかりがあっても採用するのかというと、そうでもない。そんな人材不足の状況にあっても、SNSチェックは欠かせず、不適切な書き込みや交際関係が発覚したら即「採用見送り」なのだという。