父・浅野忠信の面影も
その佐藤が柊役をどのように演じて魅せるのか、とても期待していた。というのも、原作を読む限り、柊という人物は一筋縄ではいかないキャラクターだからだ。彼は普段から精神的に不安定で、そのうえ兄と恋人を同時に失ってしまう。だが、最終的にはさつきとともに自身も“喪失”から立ち上がっていく。
佐藤はインタビューで、「監督は細かく演技に指導をせず『自由にやっていいよ』というスタイルだったので、伸び伸びとやらせてもらいました」と振り返っている。キャリアはまだ浅いながらも、演劇作品を俳優デビューの場に選び、反復稽古によって“演技のいろは”を学んで鍛えた経験や、場数を踏んでいないからこそ発することができる瑞々しさが、今作の柊役には活きていたと思う。「自由にやっていい」という現場は、彼が自分自身を試す場にもなったのではないだろうか。
また、柊は主人公のさつきが唯一“喪失感”を共有し合える存在である。となれば、本作の主演は小松とはいえ、佐藤も彼女に匹敵するレベルの演技力が求められるはず。事実、物語はかなりの割合で柊にフォーカスしている。ここで佐藤の強みを感じたのが、彼もまた演技にとどまらず、モデル業や音楽活動など、多くの表現の場を知っているということ。俳優業を始める前からファッション誌などに登場していたし、音楽では“HIMI”名義で活動しているほか、ロックバンド・King Gnuの常田大希(29才)率いるmillennium paradeの代表曲『Fly with me』にボーカルとして参加したり、母のCharaと映画『ゾッキ』の主題歌をデュエットするなど、異彩を放っている。
本作におけるエドモンド監督の即興的な演出や“画”で見せる手法には、柔軟な音楽活動や被写体として彼が培ってきた素養がマッチし、遺憾なく発揮されていたように思う。その結果、“二世”の肩書きを掻き消すほどの佐藤自身の実力を、観客に知らしめられたのではないだろうか。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。