関東某県の公立小学校教師・村井沙織さん(仮名・30代)は、小学6年生クラスの担任。6年生といえば、ちょうど11歳から12歳になる年齢。ワクチンは12歳以上が接種対象になっていて、クラスには接種できる児童とできない児童が混在している状態だ。
「早く打たせたいが問題ないか、心配もあるが先生はどう思うかなど、保護者の皆さんからの相談はさまざまです。学校として、接種を強制してくれないかとか、子供にワクチンの有効性をしっかり説明してほしい、そうお願いされる方もいます」(村井さん)
一方、やはりというか「反ワクチン」的な考え方で「絶対に子供に打たせない」と頑なな親も少数存在しているというが、結局、そんな大人たちに翻弄されっぱなしなのは子供達だ。12~15歳の子供達は接種に親の同意書が必要なため、打つか打たないかの決定権は事実上ない。
「ある児童が『接種券が届いた』と言って、別の児童が『私も、僕も』とクラスが大騒ぎになりました。また別の児童が『実はもう打った』と打ち明けると、クラス中が大騒ぎに。もう遊びに行けるじゃん、と羨む声もあれば、体が磁石みたいになるなど、ネットで知ったらしい誤情報を得意げに話す子もいました」(村井さん)
その日の放課後、村井さんを訪ね職員室にやってきたのは、ある女子児童だった。
「言い出しにくそうに『先生、私は赤ちゃんを産んだらダメなんだって』と目に涙を浮かべていました。別の女子児童から、ワクチンを打った人は子供が産めない、もしくは産まれてきても重い障害が出る、と言われたと話し、すでに1度目の接種を受けたと明かしました。そんなことないよ、先生も打ったんだよと話しましたが『先生はすでに子供がいる』と言われ、言葉に詰まりました」(村井さん)
もちろん、その女子児童が聞かされた、コロナワクチンが妊娠と出産に悪影響を必ず及ぼすという話は科学的根拠のないものなので、信用する必要はない。だが、テレビや新聞といったメディアでも、少なからず「ワクチンの危険性」について言及する報道があり、大人たちですら翻弄されて荒唐無稽な話にも不安な気持ちになってしまう。そんな状態では、子供の間に動揺が広がっていることも想像に難くなく、深刻なトラブルにも発展している。東京都内の公立中学教頭・西島徹さん(仮名・50代)が肩を落とす。
「春の修学旅行が中止になり、生徒の多くが落胆していましたが、感染者が減り、急遽秋に近隣県への修学旅行が計画されていました。しかし、3年生のクラスで『ワクチンを打った者だけが行くべき』と主張する生徒が出てきた。実はまだ、ワクチン接種済みの生徒の方が少数なのですが、教師がどんなに説明したところで、生徒全員が納得できる解決策は見出せず、保護者の同意も取れない。結局旅行計画は棚上げになり、このまま中止では子供達がかわいそうすぎます」(西島さん)
生徒たちの意見が「割れる」背景には、親はもちろん、教師の「考え方」も大いに影響しているという。
「親同士がラインなどのSNSコミュニティで『ワクチンは危ない』と話し合っていれば、それが生徒にも伝わります。近隣の中学では、教師自身が『ワクチン接種は見送りましょう』とクラス便りのプリントを生徒に配布し、問題になりました。中学生や高校生でも、打っている生徒と打っていない生徒が半々くらいの場合も多く、打っていても打っていなくても、さまざまな人からいろいろなことを言われていて、気の毒なくらい困惑している」(西島さん)