芸能

銀座文壇バーママが語るさいとう・たかを氏からの「コロナ禍の贈り物」

さいとう氏との思い出を振り返った銀座のバー「ザボン」の水口素子ママ

さいとう氏との思い出を振り返った銀座のバー「ザボン」の水口素子ママ

 9月24日、『ゴルゴ13』などの著者で漫画家のさいとう・たかを氏(享年84)が膵臓がんで亡くなった。さいとう氏といえば銀座をこよなく愛し、全盛期は故・石ノ森章太郎らとともに毎晩のように飲み歩いていたことで知られる。なかでもさいとう氏が足繁く通ったのが文壇バー「ザボン」。一晩で6~7軒回った後の最後に立ち寄ることが多かったという。さいとう氏との在りし日の思い出を、「ザボン」の水口素子ママが語る。

 * * *

 先生とのお付き合いは私が「ザボン」を開店する前の「眉」という文壇バーにいた時からなので今年で43年目でした。最後にお会いしたのは2020年の1月頃でした。いつものようにバランタイン17年をショットグラスで飲んでいて、お元気でかっこよくて、ご病気だったなんて微塵も感じませんでした。

 そしてその年の9月頃には先生から「コロナが落ち着くまで当分店に行けない。どうにも経営に困ったらその絵を売っていいよ」と言付かったスタッフさんが、ゴルゴのオリジナルの絵と全身パネルを持って来てくださったんです。最後までお店や私の心配をしてくださっていました。

 その昔、私がエリート男性との結婚願望について話したら、映画監督の伊丹(十三)さんは「銀座の女には不幸の影がないといけない。あんたが幸せな女だったら誰が店に来るんだ」と私を嗜めましたが、たかを先生は「わしゃそうは思わんで。銀座の女だって幸せになったほうがええで」と励ましてくださって。とても優しい方でした。

 そうかと思えば、「女は男性から愛の言葉を聞きたい時もある」なんて話をしたら、先生は「わしは愛してるなんて言わんで。たとえ付き合ったとしてもできない約束はしない」なんてつれないことをおっしゃったりもして……。

 晩年はとてもお幸せそうでした。3人目の奥様とはすごくウマがあったようで、奥様はお店の前まではいらっしゃるけど、その後はお一人で別のお店で飲まれて、先生も夜中1時頃まで飲んだら奥様の待ってらっしゃる店で合流して一緒に帰っていたみたい。靴下まで奥様が履かせてくださるなんて仰っていましたよ。元から穏やかな先生でいらっしゃいましたが、晩年は本当にいつもニコニコされていた印象です。

 ですが先生は最期は誰にも看取らせずに一人で逝かれました。いよいよ退院は明日と決まった時、奥様が「明日退院ですね」と話しかけると、先生は「もう少しここにいたい」とおっしゃったそうです。奥様が「帰りたくないの?」と聞くと、「帰りたいに決まってるじゃないか」って。先生も何か感じられていたのかもしれません。その晩の早朝4時頃、巡回の看護師さんがいらした時にはすでに亡くなられていたって……。一人で逝くなんて、最期までご立派でした。

 私のお店の「ザボン」は11月29日にお店をリニューアルオープンするんですが、新しい店舗には文壇バーの格式を保つためにこれまで頑なに拒んでいたカラオケセットを設置しました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

民放ドラマ初主演の俳優・磯村勇斗
《ムッチ先輩から1年》磯村勇斗が32歳の今「民放ドラマ初主演」の理由 “特撮ヒーロー出身のイケメン俳優”から脱却も
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン