本作は原作と同様、“鬼の副長”・土方の視点で描かれる時代劇とあって、終始厳しく、血なまぐさい展開が続く。だが、沖田役の山田がここに“明るさ”や“柔らかさ”を与えている印象が強くある。沖田といえば、新選組きっての剣豪として知られる人物。しかし、同郷の士である土方や近藤らの前で見せる無邪気で陽気な性格も有名だ。厳格な性格の土方に対して冗談を口にできる数少ない人物で、これを山田は愛らしく演じているのだ。
笑顔が印象的な山田の演技は、彼が持つアイドルとしての “地の力”が活きていると感じる。また、岡田とのやり取りでは、彼らがジャニーズの先輩後輩関係であることも反映されているのではないかと思わせる軽妙さだ。山田は、常に厳しい態度の土方の相好をニコニコ笑顔で崩すことのできる唯一の存在であり、ハマり役と言えるだろう。
しかしその一方で、山田の演じる沖田は明るく柔らかなだけではない。そこに関しては、さすが土方と同郷の士。剣を手にする際の彼はある種の恐ろしさを放ち、対峙する相手を冷徹に容赦なく斬ってのけるのだ。天才剣士の沖田は、部下である隊士たちへの剣術指導が非常に厳しかった人物だと言われているが、本作にもその様子が収められており、山田はそれを的確に演じて魅せている。
稽古のシーンで「刀で斬るな、体で斬れ!」と怒気を含み叫ぶ姿は、“剣の道”と新選組のために生きた沖田総司という人間の持つ性質を、端的に表現していたと思う。さらに対照的に、沖田が結核病に冒されて次第に弱っていくさまも山田は丁寧に演じている。彼のそんな姿に対する岡田の渇いた演技があってこそでもあるが、観客を感傷的な気持ちに浸らせることのない、山田の演技のさじ加減は絶妙だった。
本作は、土方歳三の生涯を一本の映画に収めているため情報量が多く、「難しい」との声も少なからず聞こえてくる。それでも本作を“歴史エンターテインメント”たらしめるのに、山田涼介が大きく貢献していることに間違いないだろう。これまで多くの役者が沖田総司を演じてきたが、山田は山田らしい“沖田総司像”を立ち上げているのではないだろうか。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。