環境にいい洗剤の普及にもつとめる
もはや海から無尽蔵に資源が現れる時代ではない
海を汚さないための配慮のみならず、生物にとってよりよい環境をつくるために奔走する人たちもいる。人の手が加わることでさまざまな生態系が維持されている沿岸地域を「里海」と呼ぶ。その里海をつくるため、『都会の里海 東京湾 人・文化・生き物』の著者で、海洋環境専門家の木村尚さんが取り組むのは、「アマモ」の再生だ。
「アマモは、水のきれいな浅い海の砂地に生える海草です。太陽光を浴びて二酸化炭素を吸収し、酸素を放出すると同時に、海底から窒素やリンなどの栄養を吸収して、海の環境を守る大切な役割を果たします。アマモが群落になっている場所は、めばるや真鯛などさまざまな種類の稚魚が育つほど環境が良好になるとされており、『海のゆりかご』とも呼ばれています」(木村さん)
埋め立てが進んで浅い海が減った現代は、アマモが群落する「アマモ場」がなくなりつつある。そこで木村さんは地域の人たちとともにアマモを育て、海をきれいにする活動を続けている。
その試みは国内外に広まりつつあり、国内では宮内庁にも伝わり、天皇皇后両陛下がご臨席して毎年行われる「全国豊かな海づくり大会」において、天皇陛下が子供たちにアマモの苗を手渡されるセレモニーが行われたこともある。
さらにアマモをはじめとした海草が持つ二酸化炭素を吸収する働きは「ブルーカーボン」と呼ばれ、国際的にも注目されている。
「アマモ場を増やして再生させることが、二酸化炭素の削減と気候変動の緩和に役立つということです。昔のように、何もしなくても海から無尽蔵に資源が現れる時代はもう来ません。今後はより積極的に人間から自然に働きかけて、ブルーカーボンを進める必要があります」(木村さん)
鹿児島・薩摩半島の最南端に位置する全国有数の港町・指宿市山川港で、祖父の代から漁業を営む川畑友和さん(43才)は、こうした取り組みを次世代に伝えるため、東京の小学校に出向いて「出前授業」を行っている。
「漁師と触れ合う機会が都会では特に少ないため、食卓にのぼる魚介類や海藻がどのように獲れるのか、地球温暖化がなぜ魚に影響するのかを知る機会のない子供がほとんどです。アマモの役割や大切さを伝えるとともに、鹿児島で養殖しているかんぱちを持っていき解体ショーをするなど、少しでも海や魚に興味を持ってもらえるような内容を心がけています」(川畑さん)
※女性セブン2021年12月9日号
アマモを守る活動を促進する木村さん
「海のゆりかご」と呼ばれるアマモ(写真/ゲッティイメージズ)