『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』で演じたヤンキーの森生とはまさに真逆で、演技のスタイルも真逆と言っていいものだろう。抑制の効いた淡々とした物言いと、それとは対照的な内面を感情的にさらけ出す演技は印象的だった。物語のカギとなる“秘密の仕掛け”を知る杉野の存在は、ヤンキーたちが友情と誇りのために拳をぶつけ合う“胸熱”な展開にシリアスさを持ち込み、自身の登場シーンだけは異質なものとしていた。
そんな杉野の『恋です!』での特徴として1つ挙げたいのが、演じる役柄を通した、作品のカラーを決定付ける力が増しているということ。前述の『東京リベンジャーズ』では、自身の出演シーンのみに留まっていたが、今作『恋です!』ではパワーアップして、作品全体にその影響を与えているように感じた。少女漫画が原作とはいえ、ヒロインが視覚障害を持っているという設定は、ともするとシリアスなものになりかねない。ラブコメディー的な演出を施しても、俳優の演じ方によってその手触りは大きく変わってくるものだ。
これを杉野は、コミカルで愛くるしい演技で、作品全体を明るく柔らかいものにしていた。もちろん、主演の杉咲の存在や、彼女との掛け合いの妙、脇を固める俳優たちの存在も大きい。しかし、ヒロインであるユキコの世界を変えるのは森生であり、ユキコが変わることによって、周囲にも変化を促していくのが本作だ。つまり、本作の1つのテーマである変化や成長というものの核は、杉野の演じる森生が握っているのだ。ユキコに対する森生の全力に、杉野は見事に応えていた。杉野か森生役を演じるからこそ、本作が好評を得ることにつながったのではないだろうか。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。