私の周りでも、紅白を見た中高年年代の人たちから「つまらなかった」という声を聞いた。出場歌手や楽曲など、若者にシフトしていたことで、YouTubeなどを自ら進んで見ないシニア世代の彼らにとっては、紅白で初めて見たアーティストも多かったようだ。そこで起きたのが「聞こえるのに聞き取れない」という問題だ。
曲は流れているのに、何を歌っているのか歌詞がうまく聞き取れないという。最近の楽曲はリズムやテンポが速く、それに合わせて早口でフレーズがつながるように歌われている。歌謡曲や演歌などに比べて、どこで言葉が切れているのか分かりづらい。聞き慣れていればすんなり耳に入る歌詞も、初めてだと字幕があっても方言か外国語のように聞こえてしまう。そこに関わるのは音の「時間分解能力」だ。
耳年齢を測定するために使われる周波数である“モスキート音”は有名だが、それと同じく、年齢を重ねると音や言葉を聞き分けるための時間分解能力も少しずつ低下するという。早口で言葉がつながる歌詞は、シニアには聞き取りづらくなり、「見たことのない歌手が聞き取れない歌を歌う紅白になった」という印象を与えてしまったようだ。
また、そこには興味がないから聞き取れない、聞こうとしないから聞こえないという「カクテルパーティー効果」も関係している。この効果は逆に、懐メロや演歌には興味がないという若者にも言えるだろう。
小林幸子や美川憲一が恒例行事のようにド派手な衣装で競い合い、盛り上げていた紅白を楽しみにしていた世代は、「今年はどんな衣装で出てくるのだろう」というワクワク感があった紅白を懐かしんでいる。
今年は「カラフル」のためか、紅組白組で勝敗を巡り、順番に応援合戦をするといった盛り上がりが無かったのも要因の一つにあるだろう。それならいっそ、出場するアーティスト全員で紅白のくじ引きでもして、組分けをすれば良いのではと思うところだ。将来の視聴者層を考えれば、シニアより若者にシフトするのも当然だろうが、若者のテレビ離れが顕著になってきた時代だ。「紅白はもういい」と話す彼らシニア世代をNHKはどう引き留めるのだろう。