国際情報

2022年、国際社会の最大イシューはウクライナ 第3次大戦の引き金にも

ウクライナに対するロシアの動向に注目が(EPA=時事)

ウクライナに対するロシアの動向に注目が(写真/EPA=時事)

 2022年は岸田政権の外交手腕が大いに問われる1年となりそうだ。米国と中ロの「東西新冷戦」が極めて深刻化し、日本が直面する課題とは何か、手嶋龍一(外交ジャーナリスト)、谷口智彦(慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科教授)、佐藤優(作家、元外務省主任分析官)の3氏が座談会を行った。【全3回の第1回】

佐藤:目下、日本メディアは2022年の外交問題として北京冬季五輪の“外交的ボイコット”に大きな関心を寄せていますが、完全にプライオリティを間違えている。最大のイシューはウクライナです。プーチンは国境付近にロシア軍を集結させており、これは第3次世界大戦の引き金となるかもしれない話なんです。

手嶋:日本では、中国の台湾侵攻に関心が集まっていますが、問題の核心は、欧州で生起しているウクライナ危機と東アジアに持ち上がっている台湾危機が、水面下で深くリンクしていることです。「習近平の中国」と「プーチンのロシア」が連携して動けば、米国は二正面作戦を強いられる。これは“悪夢”と言えます。すでにチャタムハウス(英王立国際問題研究所)では真剣に議論されていますが、日本はあまりに呑気な気がしますね。

谷口:“黒い白鳥”が現われる時は、何羽も出てくると思っておいたほうがいいですね。ウクライナと台湾海峡。複数正面をつくることは中ロにとって好都合でしょうから。

手嶋:その上、現代では戦争の形態も刻々と変化しています。湾岸戦争ではサダム・フセインが主権国家クウェートを踏みにじり、アメリカを中心に多国籍軍がイラク軍を駆逐して主権を奪還した。しかし、ウクライナにはロシア人が数多くいて、台湾にいるのも中国人です。国家の線引きは曖昧にならざるをえない。中ロは、主観的には「自分の国」だと主張しているのだから厄介です。

佐藤:そこなんです。今、ウクライナ東部には、親ロシア派武装勢力が実効支配する地域がありますが、そこに住む人たちはロシア語を話し、ロシア正教を信じ、自分たちを“ロシア人”だと思っている。ウクライナのゼレンスキー大統領はここを取り戻したいが、プーチンから見ればそれを許すと“国民”を見捨てることになり、政権が崩壊する。プーチンが求めるのは親ロシア派による実効支配の現状維持。ですが、それを認めれば国土の実効支配を諦めたゼレンスキーの政権が崩壊する。双方の“命”がかかっている問題なんです。

手嶋:一方で、ウクライナ西端の街リヴィウは“ウクライナ・ナショナリズム”の策源地なんです。反ロシア派の聖地といっていい。市場ではプーチンの顔を刷ったトイレットペーパーが飛ぶように売れていました。一方、東端のドンバス地方などにはロシア人が多く住んでおり、その点で、かつてナチス・ドイツへ割譲された「ズデーテン地方(※注)」と構図がよく似ています。その意味でも第3次世界大戦の芽をはらんでおり、軽んじるべきではありません。

【※注/旧チェコスロバキアの一部。第2次世界大戦直前、ヒトラーがドイツに編入】

(第2回につづく)

【プロフィール】
手嶋龍一(てしま・りゅういち)/1949年生まれ、北海道出身。慶應義塾大学経済学部卒。NHKワシントン支局長などを歴任。『ウルトラ・ダラー』など著書多数。

谷口智彦(たにぐち・ともひこ)/1957年生まれ、香川県出身。東京大学法学部卒。日経BP社などを経て、安倍政権の官邸での内閣官房参与などを歴任。

佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ、東京都出身。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『自壊する帝国』など。

※週刊ポスト2022年1月14・21日号

関連記事

トピックス

記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO
《国分太一コンプラ違反で解散のTOKIO》山田美保子さんが31年間の活動を振り返る「語り尽くせぬ思い出と感謝がありました」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
モンゴルを訪問される予定の雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、「灼熱のモンゴル8日間」断行のご覚悟 主治医とともに18年ぶりの雪辱、現地では角界のヒーローたちがお出迎えか 
女性セブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト
佐々木希と渡部建
《六本木ヒルズ・多目的トイレ5年後の現在》佐々木希が覚悟の不倫振り返り…“復活”目前の渡部建が世間を震撼させた“現場”の動線
NEWSポストセブン
東川千愛礼(ちあら・19)さんの知人らからあがる悲しみの声。安藤陸人容疑者(20)の動機はまだわからないままだ
「『20歳になったらまた会おうね』って約束したのに…」“活発で愛される女性”だった東川千愛礼さんの“変わらぬ人物像”と安藤陸人容疑者の「異変」《豊田市19歳女性殺害》
NEWSポストセブン
たつき諒著『私が見た未来 完全版』と角氏
《7月5日大災害説に気象庁もデマ認定》太陽フレア最大化、ポピ族の隕石予言まで…オカルト研究家が強調する“その日”の冷静な過ごし方「ぜひ、予言が外れる選択肢を残してほしい」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着で迷惑行為か》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン