件の花見の席で、兄弟やりくに絡む酔客を〈やめい〉と一喝で制したのが次席家老〈漆原内記〉だった。折しも娘〈おりうの方〉が藩主との間に男子を儲け、勢いに乗る漆原はある陰謀を画策するが、そんな中で事件が起きる。

 漆原の嫡男〈伊之助〉は、仲間と花街に入り浸っており、やはり家に居つかず、〈花吹雪〉なる無頼集団を率いる壮十郎と対立していた。ある日、料亭で伊之助ら〈雷丸〉が狼藉を働く現場に新三郎たちが踏み込んだ折、弟に襲いかかった伊之助を壮十郎が斬り殺してしまったのだ。

 むろん非は伊之助にあるが、壮十郎は仲間の名を頑として語らず、罪を被ろうとする。そんな兄を目付役筆頭の〈久保田〉は〈強情なやつ〉〈つまり、いい漢だといっている〉と評するが、弟からすれば、なぜ罪を免れようとしてくれぬのかと、承服しがたい思いだった。

 その久保田も漆原の策略に搦め取られてしまう。辛酸を嘗めた新三郎が黒沢家と織部正の名を継いだ十数年後、思いもよらないドラマが幕を開けることとなる。

今いる自分だけがまことという思い

「古風な言い方になりますが、僕はビルドゥングス・ロマン(成長小説)の信奉者なんです。前作『高瀬庄左衛門御留書』にしても、中高年下士の変化と成長の物語だと思って書きました。

 特に今回は10代の少年が30代の青年になる王道的な物語。その間、新三郎は周りの人から様々なものを受け継ぎ、自分というものを形成していく。父や舅はもちろん、敵役の漆原内記でさえ、彼の成長に寄与しているというのは最も描きたかったことのひとつです。敵役はいても、一方的な悪役は存在しない。拒むにせよ取り入れるにせよ、出会った人々の思いに向き合いながら生きてゆくのが人間だと思うので」

 だからだろうか。〈ひとの心もちには応えよ〉〈応えんとしているうちに、多くを得る〉など本作には数々の金言がちりばめられている。二転三転するお家騒動を描きながら、しみじみとした人生模様も堪能できるのだ。

「二転三転ということでいえば、元々ミステリーも好きなので、伏線を張ったり、読者を驚かせたりすることが性に合っているんだと思います(笑)。映画でも、『十二人の怒れる男』のような裁判物は特によく観てきました。もちろん時代小説ではありますが、ミステリータッチと言われることも増えてきましたね」

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