架空であってもふるさとを求める都会人と、そうした設定を受け入れざるをえない過疎化した山里の人たちとの心優しい物語は今、私たちが生きている社会はこのままでよいのか考えさせもする。
「明治維新の大命題っていうのが近代国家をつくるための中央集権化でした。以後、ぼくらは150年続く歴史の流れの中に生きていて、中央集権化に少子高齢化が重なって、地方の過疎化が進むのは自明のことなんです。それなのに、この間、有効な手立てを何も打ってこなかった。地方が消滅するというのは、第一次産業が消滅するということだから、国家の生産能力がなくなるという基本的な問題なのに、なかなか顧みられない。かなり深刻で憂慮すべき状況なんですけどね」
【プロフィール】
浅田次郎(あさだ・じろう)/1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で吉川英治文学新人賞、1997年『鉄道員』で直木賞、2000年『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞、2006年『お腹召しませ』で中央公論文芸賞、司馬遼太郎賞、2008年『中原の虹』で吉川英治文学賞、2010年『終わらざる夏』で毎日出版文化賞、2016年『帰郷』で大佛次郎賞を受賞。近著に『大名倒産』『流人道中記』など。第16代日本ペンクラブ会長を務めた。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2022年2月17・24日号