「ロシアゲート」といえば、ドナルド・トランプ前大統領とモスクワとの「怪しげな関係」のことだったが、ここにきて政敵だったヒラリー・クリントン元民主党大統領候補が標的になってきた。トランプ氏の疑惑を探るために同氏の自宅やホワイトハウスにサイバー攻撃をかけていたという疑惑が急浮上したのだ。
スッパ抜いたのは親トランプのフォックス・ニュース。これにワシントン・タイムズやサンフランシスコ・エグザミナーなど保守系メディアが追従し、ウォールストリート・ジャーナルなどは論説委員名で「(もし事実だとすれば)米政治史上最も汚いトリックだ」と論難した。一方、リベラル系のニューヨーク・タイムズやCNNなどは「ダーラム特別検察官の歪められた捜査が拡散」と、やや斜に構えた報道に終始している。
情報源になったダーラム氏は司法省に35年勤務し、2016年の米大統領選挙へのロシア介入疑惑の捜査を担当。2020年10月には、当時のトランプ政権から政権が代わっても解任されない特別検察官に任命された。つまりトランプ氏の「置き土産」で、れっきとした共和党員だ。大のマスコミ嫌いで記者会見は数えるほどしかせず、米中央情報局(CIA)を目の敵にしていることでも知られる。
保守系メディアが大喜びしているヒラリー氏の疑惑とは、2016年の大統領選に際し、ヒラリー選対の顧問弁護士であるマイケル・サスマン氏(2021年9月、米連邦捜査局=FBI=への虚偽報告容疑で起訴)がインターネット企業の協力を得てトランプ氏の自宅やホワイトハウスの執務室にサイバー侵入して情報を窃盗したというもので、ダーラム氏はワシントン連邦地裁に捜査継続申請をしたという。同氏は、疑惑を立証する証拠データや電話通信記録があると強調している。
もっともCNNなどの報道によれば、もともと特別検察官捜査班が注目していたのは、トランプ氏がロシア政府と密接な関係にある銀行幹部とロシア製スマートフォンを使って頻繁に交信し、これが重大な国家安全保障上の脅威になったという疑惑だった。それだけに、今回ダーラム氏が明かした情報は「トランプ氏にとって都合のいい部分だけを意図的にピックアップしたチェリー・ピッキング(イチゴ摘み)にすぎない」(事情に精通したサイバー専門家筋)といった見方も出ている。
ヒラリー氏はただちにツイッターで反撃、「フェィク・スキャンダルも甚だしい。前大統領とフォックス・ニュースがでっち上げたもので、彼らはトランプの疑惑をごまかすためにでたらめな話を流している。(トランプの悪行は)必ずすべて白日の下に晒される」と憤懣やるかたなしといったところ。