Kさんはあまり理解していないようだったが、弟が見つけたサイトは、販売サイトの映像を無断で転載し公開しているサイトで、おそらく、Kさんを勧誘した男とは無関係の第三者が運営しているサイトだと思われる。いわゆる「アフィリエイト」などの広告収入目的で開設されたサイトで、あらゆる映像が無断で転載され、顔がわかるようなシーンだけがキャプチャー画像として切り取られていた。
「知り合いの専門家を通じて弁護士さんに相談しても、そういったサイトは海外の業者や司法機関に連絡を取らなければならず、かなりの費用がかかると言われました。警察にも相談して、一応調書は取ってもらいましたが、いくら待っても、それ以上の進展はありません」(Kさん)
さらに悪いことに、消えたはずの映像はその後も、ネット上の動画サイトに何度も転載され、海外のポルノサイトにまで掲載されていた。もはや、どうにもできないと悟ったKさんは、その後も心身が不安定になり、日常生活を送ることすらままならない。浅はかだった自分を呪い続ける日々が今も続いていると告白する。
きつい言い方をすると、その原因を作ったのはKさん自身である。いくら困窮していたとはいえ、怪しいと思う世界に飛び込んで行く判断をしたのはKさんなのだ。
だが、終わりがない被害を受け続けねばならないほどの非があるとはいえないだろう。心身に重い傷を負ったのはKさんだけだ。やはり、Kさんが無知であることにつけ込んで勧誘した男の罪は重い。Kさんを騙し、Kさんの人権を蹂躙することで金儲けし、またおそらく、違法転載が常で「一度出回ってしまえば回収不可能」という実態を把握していたにも関わらず、自身は何も知らないと説明責任を果たさず逃げ回る。今も続く被害の鍵を握る人物なのは間違いないのに、男に責任を取らせる術はKさんにないも同然で、結局のところ、泣き寝入りを余儀なくされている。
成人年齢の引き下げなどで、18、19歳も保護者なしで様々なことを決められるようになる。それにともない、金融詐欺への被害などが増えるのではと危惧されているが、それだけではなく、Kさんのような被害も今後、増加する可能性は極めて高い。経験が少ないのだから、若者が無知であるのは当然だし、それ自体は罪だと問うのは無理がある。だが、困ったときに親や家族に遠慮して、間違った大人に相談するのは危険だし、浅はかすぎるといわざるを得ない。経済的、精神的に追い詰められたときにとるべき手段の教育、そして、どんなときも相談してよい大人がいることを、また、公的機関やNPOなど様々な救済機関が存在していることを知らしめるべきだろうし、今よりもっと手厚くケアされるべきだろう。若者に失敗が許されない社会は、誰にとっても不幸なのだ。