「あさま山荘事件」について取材を受けた植垣康博氏(スナックにて撮影)
かつて作家・安岡章太郎は『僕の昭和史』で連合赤軍を日本陸軍になぞらえた。リンチを正当化する考え方がそっくりだというのだ。植垣はこれに加えて森が剣道部時代を語ったように、「運動部の論理」が持ち込まれたと指摘する。革命を目指した連合赤軍は古臭い日本的体質を持っていた。
あの時代、植垣らが目指したような革命を生む土壌などどこにも育っていなかった。50年経った今も革命を是とするのか。
「僕らの時代よりも日本が豊かになったのは事実だけど貧富の差は広がるばかり。革命が必要という気持ちに変わりはない。でも、だからといって無理に起こそうと思って起こすものではない」
その答えは大衆から遊離した暴力路線にのめり込み、孤絶した山中で同志殺しに走ったことへの厳しい戒めでもある。
「僕らは権力ではなく個人を押し潰そうとする党派の論理に負けたんだ。でも、それは今の日本社会でどこにでもあり得ること。あの事件を特殊なグループによる『集団狂気』などと片づけてはダメだと思う」
植垣はそう言う。個性がどんどん解体され、会社や組織の論理が優先される。そんな日本社会の姿は連合赤軍化する危険を常に孕んでいる。だからこそ個を確立しなくてはならない。
「僕はこのことに気づくのにあの経験をしなくてはならなかった。随分回り道をしたもんだよ」
スナックの壁にはかつて恋仲だった大槻節子の絵が掛けられている。東京拘置所で植垣がボールペンで描いたものだ。多くを語ろうとしないが、どんな気持ちで描いたのだろうか。植垣は彼女の絵とともに生きている。
(了。第1回から読む)
【プロフィール】
竹中明洋(たけなか・あきひろ)/ジャーナリスト。1973年山口県生まれ。北海道大学卒業。NHK記者、衆議院議員秘書、『週刊文春』記者などを経てフリーランスに。著書に『殺しの柳川』(小学館)など。
※週刊ポスト2022年3月11日号