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【書評】三島由紀夫が絶賛した天才歌人・春日井建の評伝的人物記

『私説 春日井 建──終わりなき反逆』著・荒川晃

『私説 春日井 建──終わりなき反逆』著・荒川晃

【書評】『私説 春日井 建──終わりなき反逆』/荒川晃・著/短歌研究社/2200円
【評者】平山周吉(雑文家)

 十九歳で鮮烈なデビューをし、三島由紀夫に絶賛された天才歌人の評伝であり、親友による哀切な回想である。

『私説 春日井建──終わりなき反逆』は、ジェームズ・ディーンの映画「理由なき反抗」を思い出すシーンから始まる。春日井建の短歌を読んだ著者・荒川晃は自分たちの同人雑誌に誘おうと、名古屋の家を訪ねる。荒川の実家は春日井の家のすぐ近所だった。「[二階から]降りてくる人の赤い靴下が見え、次の一歩で青い靴下が見えた」。荒川は映画の一シーンに思いあたる。

「雑誌の仲間に見せたら、みんなシビれましたよ」。荒川が褒めると、春日井は羞ずかしそうな笑顔を見せる。「不良っぽい翳」が見えないので、「拍子抜け」する。一九六〇年前後の青春の雰囲気が伝わってくる描写である。

 春日井は同人参加を承諾した。同人の仲間には後に写真家となる浅井愼平や、後にコピーライター、グラフィックデザイナーになる逸材が揃っていた。そんなサブカル創生期にあって、「同性愛、暴力指向、血への偏愛」を三十一文字に凝縮したのが春日井建だった。

 名古屋でルポライターとなった荒川は、春日井が六十五歳で死ぬまでずっとつきあいが続く。短大では同僚となり、春日井は十代に書いた日記帳までを荒川に託す。父と母への反逆、「趣味嗜好」への苦悩、三島からの小説への誘い、短歌への訣別と十五年後の復帰、アルマーニとベンツの「ミステリアス」な教授像など、多面的な天才像が描かれる。

「建自身がよく使った言葉でいえば、現実への対応がヘマであり、ポカの多い人生」を歩んだ天才の晩年は病魔との戦いとなった。その間に詠まれた短歌も初期とは別種の絶唱である。病身の春日井建は三島との魂の交流をするため、『暁の寺』のバンコクを目指す。

 三島が晩年に出した『三島由紀夫評論全集』の作家論の部で、自分より年下で論じたのは澁澤龍彦、石原慎太郎、そして春日井建のたった三人だけであった。

※週刊ポスト2022年3月18・25日号

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