個人的な「恨」
一連の“実績”があるだけに、新政権を担う保守派は文大統領の訴追に前のめりのようだ。前川氏が語る。
「保守派からは、北朝鮮との融和策を示しながらまったく結果を残せなかった文氏に対し、国家内乱罪で即刻逮捕すべきという声が上がっています」
さらに尹氏には、文大統領に対する個人的な「恨」がある。そもそも尹氏は、朴前大統領の収賄事件捜査で名をあげて、文政権下で検察トップの検事総長に抜擢された。
だがその後、曹国元法相ら文大統領の側近に対する疑惑や検察改革をめぐって文政権と対立するようになり、「反文在寅」を掲げる野党の大統領候補となった経緯がある。コリア・レポート編集長の辺真一氏が語る。
「尹氏は検察時代、曺氏に10以上の罪状をつけて徹底的に捜査しました。さらに曹氏の娘の不正入学問題にまで切り込んで、文氏と激しく対立した。親分肌の血気盛んな性格だけに、今後の文氏の追及についても妥協せず、徹底的に追い込むでしょう」
文大統領の敵は尹氏だけではない。韓国に詳しいジャーナリストの室谷克実氏が語る。
「文氏は親日清算を掲げて、朴政権の要人を監獄に送り、保守派の公務員や文氏の側近を捜査する検事を一斉に左遷するなどの理不尽な人事を繰り返しました。歴代大統領は不正や腐敗で裁かれたが、文氏に対しては冷や飯を食わされた者の恨みが募りに募っている。このため多くの人間が躍起になって文氏を標的にする可能性があります。
文氏には2018年の蔚山市長選に不当に介入した疑惑や、特別扱いで私邸の土地を購入した疑惑もあります。こうした疑惑についても徹底的に追及されるでしょう」
ただし現在、韓国の国会は「共に民主党」が議席の3分の2近くを占めており、尹氏は厳しい政権運営を迫られる。
このため前川氏は「尹氏が動くのは2年後ではないか」と指摘する。
「尹氏としては今すぐにでも報復したいはずだが、少数与党の状況下ではなかなか実行に移せません。尹氏は時勢の流れを見るのに長けているので、世論と政局の動きを見ながら最も効果的なタイミングで文氏の疑惑を立件し、一気に逮捕・収監する構想を描いているはずです。まずは堅調に政権を運営して、2024年4月に行なわれる次期国会議員選挙に勝利を収めたタイミングで動くことになるでしょう。
ただし文氏もその時期については熟知しているはずなので、いざとなれば海外逃亡や同盟国への亡命に踏み切るかもしれません」(前川氏)
尹氏の報復相手は、文大統領にとどまらない。冒頭の中央日報インタビューで尹氏は、対立候補だった李氏の土地開発をめぐる疑惑についても、「再捜査すべきだ」と断じた。