広島駅で発車準備をする5100形グリーンムーバーmax(2012年撮影:小川裕夫)
先述したように、これまでの広電の電車は後方もしくは中央から乗車し、前方から下車する方式だった。この方式だと、車内での移動を伴う。車イスの利用者や足の悪い高齢者などにとって、それら車内の移動は多少なりとも負担になる。
全扉乗降方式へと切り替われば、こうした負担はなくなる。路面電車はバリアフリーな公共交通と謳われるが、全扉乗降方式によって路面電車のバリアフリー化はいっそう促進される。
さらに、これまではスムーズに下車したいという乗客心理が働くため、電車前方にある降車口に乗客が偏重する傾向が強かった。これでは、それほど客が乗っていない電車でも前方に乗客が固まるという状況が生まれる。それは、トラブルを誘発する原因にもなる。
そして降車口が前方だけに限定されると、どうしても降車時間が長くなる。一方、全扉乗降方式だと降車時間を短くできる。これは、定時運行にも寄与する。
昨今の鉄道業界は、人手不足が深刻化している。鉄道各社はあの手この手で省人化に取り組む。山手線ではドライバーレスと呼ばれる運転士を必要としない自動運転の試験が繰り返されている。全扉乗降方式へと切り替えると、これまで乗務してきた車掌が不要になる。広電は人手不足を解消すること見越して、全扉乗降方式を進めているのだろうか?
「すでに全扉乗降方式に切り替えた電車もありますが、これまで通りに車掌は乗務しています。全扉乗降方式は、人手不足を見越した取り組みではありません」(同)
いまだ日本国内では馴染みの薄い信用乗車だが、2023年3月に一部区間が開業予定の宇都宮ライトレール(栃木県)は、乗車方式に信用乗車を採用するという。今後は新しい乗車方式として広がっていくかもしれない。