全扉乗降方式を拡大する広島電鉄
広電は軌道線の区間では均一運賃制を採用しているが、鉄道線の区間では距離制を採用している。つまり、ふたつの運賃制を併用しているので、これまでは原則として降車は前方の扉に限られていた。
「広電ではグリーンムーバーLEXと呼ばれる1000形のみ、どこの扉からも乗降車できる全扉乗降方式を採用していました。グリーンムーバーLEXは、すべての乗降扉にICリーダーが設置されていたからです。今年3月12日からは、ほかの車両にも全扉乗降方式を採用していくことになりました。少しずつ全扉乗降方式へと切り替えていき、11月には全車が全扉乗降方式になる予定です」と話すのは広島電鉄運行計画課の担当者だ。
グリーンムーバーLEXは2013年に登場した広電の新型車両で、名前からもわかるようにグリーンムーバーの新型後継車だ。
すべての乗降扉にICリーダーが設置されていれば、IC乗車券の利用者はどこから乗り降りしても運賃を支払うことができる。
鉄道の運賃は券売機できっぷを買い、下車駅で自動改札や駅改札員によって収受される。もしくは、利用者が運賃箱に投入するなどして精算する。
ICリーダーの設置によって、利用者が運賃を精算する方式へと切り替わった。これは、利用者に運賃収受業務を委ねたことを意味する。こうした乗車方式だと、無賃乗車や不正乗車が発生する可能性が高くなると言われる。
しかし、鉄道事業者は利用者の良心に全幅の信頼を置き、無賃・不正乗車が起きないことを前提にしてICリーダーの設置を進める。そして、電車の運行に専念する。こうした方式は、信用乗車と呼ばれる。海外の路面電車で、信用乗車は決して珍しくない。広電が導入を進めている全扉乗降方式は、信用乗車に近いシステムといえるだろう。
全乗降扉にICリーダーを設置すれば、当然ながら多額の設置費用が発生する。また、メンテナンス費用も増えるだろう。それにも関わらず、なぜ広電は全扉乗降方式を拡大させるのか?
「広電は電車・バスを運行しています。そのほかにも市内でバスを運行している事業者はあります。バスも広島県民・市民にとって重要な足です。しかし、今後は輸送力の高い路面電車が基幹交通を担うことになると考えています。広電は運行している全電車を3両編成もしくは5両編成へと切り替えていく予定です。そのため、スムーズに乗り降りできる全扉乗降方式を全電車で導入することになったのです」(同)