そう語るハリナさんは、顔をくしゃくしゃにして笑った。
近くの市場で野菜や果物を売っているソヴェトラーナさん(48)も、定休日以外、戦争の影響で休日にしたことはないといい、どっしり構えている。27歳と22歳の息子2人は軍に所属し、黒海に面した南部のオデーサ州に駐留している。
「2人の息子を誇りに思っています。家にいると息子のことが心配になりますから、仕事しているほうが気はまぎれますね」
脅威と共に生きるしかない庶民たちの表情には、不安よりもむしろ、たくましさが感じられた。
【プロフィール】
水谷竹秀(みずたに・たけひで)/1975年生まれ。上智大学外国語学部卒業。2011年『日本を捨てた男たち』で開高健ノンフィクション賞を受賞。現在ウクライナで取材中
※週刊ポスト2022年5月20日号