ダチョウ倶楽部・上島竜兵さん(享年61)の死去で芸能界が悲しみに包まれるなか、「自分が治療を勧めていれば……」と悔やむ一人の医師がいる。脳神経外科医で、東京脳神経センター理事長の松井孝嘉氏だ。かつて松井氏は、上島さんの小さな異変を見つけていたのだという。
「忘れもしません。2007年に『午後は○○おもいッきりテレビ』(日本テレビ系)の企画で、ゲスト4人の首を診察したところ、上島さんの首の筋肉バランスが最も崩れていたんです。筋肉が硬くなっており、いわゆる“首こり”の状態だった。積極的に治療するかどうかの境目でした。あのときに強く勧めていればその後の人生も変わったのではないかと、悔やまれるのです」(松井氏)
なぜ首のこりが気になるのか。
「それが将来的に『うつ』を招きうる重大な兆候だからです」
そう話す松井氏によれば、うつ症状の多くが、首の筋肉のこりに起因する自律神経失調症の諸症状であることが自身の研究で分かったのだという。
「『頸性うつ』と呼ぶべき病気で、心因性のうつとは別物です。私は45年以上にわたる研究で、首の筋肉のこりが副交感神経の働きを阻害して自律神経全般の異常を招き、それによりうつなどの症状が出てくることを突き止めました。
『頸性神経筋症候群』と名付けたこの病気は、全身の倦怠感や精神不安、集中力の低下、不眠、食欲減退、パニック障害などの症状が現われ、心因性うつに比べて自殺率が高い。にもかかわらずこの頸性うつは周知されておらず、抗うつ剤など心療内科の領域で治療が行なわれてしまう。こうした治療は頸性うつにはあまり効果が期待できません」(松井氏)
現代人はパソコンやスマホで前屈みの姿勢になる時間が増えている。このことが首のこりに直結していると松井氏は話す。
「本来、首の骨はCの形に曲がっていて、そのカーブによって6kgほどある頭の重さを分散させて支えています。しかし、スマホ社会の到来で、長時間前傾姿勢で過ごす人が増えた。首の骨がC字から真っ直ぐになり、頭の重さが分散されず首の筋肉に負荷が集中してしまう。これが首のこり、引いては頸性うつに繋がっているのです。近年は当院に来るうつ症状の患者のうち、心因性のうつは1割未満で、9割以上が頸性うつと診断されます。
もちろん上島さんを診たのは15年前ですし、頸性うつだったと断言するつもりはありませんが、バランスの崩れた首の筋肉が自然によくなることはなく、年齢と共に悪化していったとしたら、その影響は無視すべきではないと思うのです」